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2025年1月28日(火)13:00~18:20

常に高い売上目標を達成し続けなければいけない営業組織。先行きの見通しが立たない時代においても成果を挙げるためには、過去の経験にとらわれず、柔軟に顧客や時代に合わせて変化し続けなければなりません。変化に必要なのは、継続的な学びであり、新たなテクノロジーや新たな営業の仕組みは営業組織の変化を助け、支えてくれるものであるはずです。SalesZine編集部が企画する講座を集めた「SalesZine Academy(セールスジン アカデミー)」は、新しい営業組織をつくり、けん引する人材を育てるお手伝いをします。

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エンタープライズ企業への営業で考えるべき4つのフェーズとは?

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 リード獲得のために認知拡大し、集まったリードから商談につながりそうな顧客を見極めてセールス活動を行う。ごく一般的な絞り込み型のセールスですが、これは主に中小企業向けの方法であり、エンタープライズ企業には有効ではありません。なぜなら、エンタープライズ企業は購買プロセスや製品に求めるカスタマイズ性などが中小企業とは異なるからです。そこで今回は、エンタープライズセールス独自の考え方と手法について解説された書籍『エンタープライズセールス』(翔泳社)から、エンタープライズ企業に有効なセールスの考え方を紹介します。

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 本記事は『エンタープライズセールス 大企業担当の営業組織が成果を出し続けるためのバイブル』(著:佐藤亮、監:松村泉)の「第1章 エンタープライズ企業に従来の「絞り込み型」セールスが有効でない理由」から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。

大企業と中小企業の違いは社員数と歴史

 中小企業と大企業の違いは、資金力、組織構造、意思決定プロセス、市場での影響力、ビジネスの柔軟性、複雑な購買プロセスなどがあげられますが、それらの違いの根っこは社員数と歴史だと考えています。つまり、社員数と歴史が購買プロセスや意思決定を複雑にしているということです。この影響を理解できれば、大企業のお客さまに対して寄り添った支援ができるようになるでしょう。

“万が一”が起こるのが大企業

 ある大手製造業で弊社の顧客管理アプリを使ってもらうプロジェクトがありました。テストの段階で営業担当者の方から「携帯電話から商談登録時に時折使えなくなる」という声が多くあがってきました。よくよく調べると、その製造業の社員の方が使っている携帯電話は海外製の無名なOSで、コストを抑えたいのでiPhoneやAndroidを採用しなかったことが判明しました。

 弊社でも主要なメーカーで検証を行っていましたが、海外のマイナーなメーカーの携帯電話では100%検証できていませんでした。本国の開発メンバーと話し合って対応し、問題を解決できました。

 携帯電話を変更してもらうという選択肢もあったのではと思われる方もいるかもしれません。しかしこのケースの大企業の場合、特定の商社から4年契約という条件で携帯電話を購入しており、途中解約すると台数分の高額な違約金を払わないといけないという状況でした。

 そのうえ、数千人規模の社員に携帯電話を配布してしまっているので、変更のために再度社員向けに説明会を何回も開かなければならず、マニュアルも変えないといけませんし、別のアプリケーションにも影響を与える恐れもあることから、おいそれと変更することはできません。

 この大企業ならではの背景を理解せずに、安易に「携帯電話の検証は時間がかかるので、とりあえず導入して合わなかったら後で変えましょう」と軽はずみな発言をすると、お客さまからの信用を失うことにつながってしまいます。反対に、万が一のことを考えて先回りをした提案ができれば、「自社のことをよくわかってくれている」と思われます。

過去の成功体験との戦い

 東京商工リサーチによると、2023年の倒産企業の平均寿命は23.1年で、2年連続で短縮しています。何十年もこの激動の時代を乗り越えてきた大企業には独自の文化や成功体験が存在しています。その独自の経営手法があったからこそ今があるので、過去を否定することは簡単にはできません。

 そんな中、たかだか数回話を聞いただけで営業担当者がおいそれと「御社の課題は……」などと言えるわけがないのです。

 またその何十年の積み重ねがブランドとなり、そのブランドによって世間や取引先から信頼感を得られているわけで、1つの失敗や事故が与える影響は計り知れません。「大企業はスピードが遅い!」と安易に発言する営業担当者がたまにいますが、この歴史の重さを理解できていないからこその発言でしょう。

 中小企業は小回りが利きやすいですが、大企業は簡単には進路を変えられません。ある方向に進んでしまったら慣性の法則が働いて、変わることよりも進むことが優先されてしまいます。それが大企業の強みでもあり弱みでもあります。

「実現可能性のある解決策」を提示するエンタープライズセールス

 このような大企業を担当する営業には、会社の独自の事情を考慮して「実現可能性のある解決策」を提示することが求められます。

 自社の製品・サービスの機能を紹介してROI(費用対効果)を示したとしても、お客さま先の営業部長は「過去に同様のサービスを導入して失敗したことがあるから」とネガティブな反応かもしれません。情報システム部門は「社内で長年構築してきたシステムを使いたい」と言うかもしれませんし、法務は「セキュリティー上のリスクがあるから初めてのクラウドシステムに許可は出せない」と言い、また経営者は「営業よりも、アフターサポートの強化を優先したい」と言うかもしれません。

 例えば、営業部長が過去の経験を引きずり、法務もリスクを感じているのであれば、まずは1つの支社からトライアルをして成功体験を積みあげる必要があります。また、情報システム部門が自身で開発したシステムに誇りを感じているのであれば、現行のシステムではまかないきれない範囲に絞って始めるとよいでしょう。経営者が今回の提案領域に興味がなければ、まずは初期投資を小さくして実績を出してから再提案を行うことが現実的です。

 そのような過去の経験、現場のシステム、対外的なリスク、将来やりたいことなど、その会社固有の事情を踏まえて、営業は提案しなければならないのです。お客さまの過去と現在、そして将来を理解して組織を動かす提案をしましょう。

大企業の購買プロセスの特徴

 図1に社員数と歴史の違いが購買プロセスにどのように影響を与えているのかをまとめています。

図1 大企業と中小企業の購買プロセスの違い
図1 大企業と中小企業の購買プロセスの違い

 大企業のリード(見込み客)は待っているだけではほぼこないと言っても過言ではないでしょう。正確に言えば、購買意欲の高いリードが入ってくるのは稀まれということです。大企業は分業が進んでおり、情報収集と検討、評価と判断でそれぞれ責任者が分かれています。

 このような決裁権を持っている人がリードとしてくることは稀で、自然と集まるリードの多くは情報収集にきている決裁権のない方がほとんどで、特に自らが強い課題感を持っていたり導入したい製品イメージを持っていたりするわけではないことが多いので、イベントやセミナー後にフォローをしても「今は情報収集しているだけですから、結構です」と言われ、「また何かあったら声をかけてください」で終わってしまいます。

 商談については、大企業は関係者の人数の多さが特徴です。1つの商談に関わる平均の人数は6名といわれ、多い企業だと稟議のときのハンコが30個ある場合もあります。注意したいのは、検討する人と利用する人が異なる点です。例えば何かシステム構築をするとなれば検討主体は情報システム部門ですが、実際に利用するのはマーケティング部門ということがあります。

 また何か機械を購入するときも検討は企画部門ですが、実際に利用するのは製造部門です。利用する側は自分にとってのメリットや使いやすさなどを気にしますが、検討する側はコストや効果、セキュリティー面などさまざまな要素から比較を行うので、1つの購買には複数の比較検討軸が出てくることが一般的です。

 そのため、稟議制を取る会社も多いので、議して決さずと、全員の意見がまとまらず、誰か1人がリスクを背負うことになるので、物事を決める際に長い時間を要する傾向にあります。

 大企業の契約については、予算制度と稟議制度が特徴としてあげられます。もちろん中小企業でも予算はありますし何か購買をする際のルールは存在しますが、大人数の組織ほどルールの中で投資を行わないと無駄な出費や悪意のある支出が増えてしまうので、その形式性と複雑性が異なります。

 例えば、稟議書もフォーマットが定められ、独自の計算式を用いたROIの記入が必要だとか、安全性やセキュリティーチェックシートを合わせて提示しないといけないとか、相見積もりを3社以上取って比較資料をつくらないとダメだといったルールがあり、提出する資料も膨大になります。また、前年度に予算申請を行っていない稟議を通すためには経営会議で議題にあげないと発注できないとか、逆に役員・部長・課長にそれぞれ決裁権がある金額が定められており、その金額内に収めるために交渉が入るケースもあります。

 なお、アフターサポートには、販売する行為の何倍も工数がかかってきます。数千人・数万人が使うとなると、導入した機器やシステムが停止をしたときの影響は計り知れません。トラブルが起きたときの対処スピードや再発防止のための調査報告書、トラブルが起きないための予防処置、利用促進させるための支援などが求められます。販売後がスタートで、むしろここに大きな時間をかける必要があります。体力がない会社が安易に取引を望むと期待値に届かず簡単に契約が打ち切られたり、自社にとって赤字になったりするケースも少なくありません。

 このように予算や稟議のルールをクリアして契約するのは大変な道のりですが、1つの契約金額は非常に大きいですし、もし成功事例になれば知名度が高い会社が多いので、マーケティングの広告として使うことも可能です。ハイリスクハイリターンが大企業との取引の特徴といえるでしょう。

絞り込み型とエンタープライズセールスの拡散型の2つの営業モデル

 では、企業規模の違いがどうして営業手法に影響を与えるのでしょうか? 要素は2つあると考えています。それは、購買ボリュームとカスタマイズ性が異なるからです。

図2 購買ボリュームとカスタマイズ性による営業モデルの違い
図2 購買ボリュームとカスタマイズ性による営業モデルの違い

購買ボリュームとカスタマイズ性

 購買ボリュームの違いは1回の購入数や金額もですが、頻度と時間軸が大きく関係します。1つの製品を1年で1000個買うのか、100個を10年かけて毎年買うのかという意味です。

 つまり営業としては1回限りの関係か今後何年も付き合う関係かで捉え方が変わります。1回限りの関係でお互いの利益が合わなければそのまま決裂するだけですが、長い付き合いの場合、お互いの損得を1回の取引で判断しなくても問題ありません。例えば、「今回はこのA製品の割引で赤字でも、次回B製品を購入するときは黒字にするので何とかしてほしい」などの交渉も可能になるので、数年先のことを考える必要があります。

 またカスタマイズ性の違いとは、標準設計の標準品か、専用設計されたカスタム品かの違いです。標準品を販売するのであれば、その製品・サービスを求めている人を見つけることが営業の仕事となります。また、単価が低い傾向になるため多くの件数に対応しないと1人あたりの営業経費と見合わなくなりますので、同じ仕事を大量にこなす圧倒的な効率性が求められます。

 逆にカスタム品の場合は多くの件数をさばくことよりも、1社1社お客さまの要望をくみ取り、自社の製品開発とすり合わせる力が求められます

絞り込み型セールス

 購買ボリュームが限られている、中小企業向けの営業で多く使用される営業モデルは、マスマーケティングのような絞り込み型が合っています。標準品を大多数のお客さまに提供する営業スタイルに向いており、1つの成約に向かって「絞り込んでいく」形を取ります。

1.認知拡大

 まず起点は名刺情報の獲得です。この段階ではホームページにホワイトペーパーの設置や、広告やイベント・展示会などのマーケティング施策を実施し、認知をできるだけ「多く」獲得します。主にマーケティング部門や広報部門が行うことが一般的です。

2.見込み客選定

 次は見込み客選定で、その獲得した名刺情報をもとに、インサイドセールスが電話したり、メルマガを打って相手の反応を見たりしながら自社製品を買う見込みがあるお客さまを「選定」します。いわゆるBANT情報が埋まっているお客さまを絞り込むことを行います。

※BANT Budget(予算)・Authority(決裁権)・Needs(必要性)・Timeframe(導入時期)

3.商談対応

 さらにその選定した見込み客から提案機会、つまり引き合いを生み出せるかどうかを判断します。この段階では「営業が単独」でお客さま先に訪問し、自社製品を紹介しながら提案します

4.契約

 最後に契約をもらったら、定着支援部隊やサポートチームに引き継ぎます。これで販売活動は「終了」となります

エンタープライズセールス

 一方で購買ボリュームが多くカスタム品の提案を求められることが多い大企業相手には、拡散型営業モデルのエンタープライズセールスが適しています。特定の限られた会社からLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化させることを目的とした営業モデルであり、1つの会社内の人脈やタッチポイント(接点)、契約を「拡大させていく」ことで実現します。ただし、お客さまが中小企業であっても、ビジネスを拡大している成長企業の場合はエンタープライズセールスの販売手法が向いている場合もあります。

図3 エンタープライズセールスは拡散型
図3 エンタープライズセールスは拡散型

1.企業特定

 絞り込み型は多くの認知を獲得することからスタートしていましたが、エンタープライズセールスは逆に提案する企業を「特定」することから始めます

 大企業はインバウンドマーケティングで待っていても有効リードが自社にこないため、手紙やDMなどのアウトバウンド型アプローチを取らざるを得ません。当然同じことを競合他社も行うため、大企業の担当者には毎日大量のDMやイベントの誘いがきています。

 そこで目を引くためには一球入魂でカスタマイズした内容にする必要があるため、それを何百社も1人で対応するのは困難です。まず、どこの企業・業種を今期のターゲットにするかを特定しないとなりません。手紙を大企業に送り、ダメだったら同じ手紙をまた別の大企業へ……というやり方をしている営業の方は特定することから始めましょう。

2.関係構築

 絞り込み型では有望な見込み客を絞り込んでいきましたが、エンタープライズセールスではむしろ拡散させていきます

 前述の通り、大企業は稟議制で意思決定に多くの人が関わります。狙っていた大企業のキーマンから資料請求があったとして、その1人のキーマンだけの力では稟議は通せません。

 なので、役員や上司、現場部署、情報システム部、調達部、経理部など、あらゆる部署の人に会い、会社の優先順位や課題をさまざまな角度から確かめる必要があります。「見込み客からすぐに商談をつくりたい!」という気持ちをグッとこらえ、そこから「関係を構築」することが次に求められます

3.信頼の醸成

 提案機会、商談をつくれた段階です。絞り込み型では営業が単独で対応しますが、エンタープライズセールスはここでもやり方が違います。大企業の購買担当者は数千人や数万人が使うものを選定するので、慎重にならざるを得ません。そのため、あらゆる情報を集めようとし、その真偽を確かめようとします。こうした背景から、たった1人の営業が言うことだけを信じて買うことはできないのです。

 そこで重要なのは、個人のエンゲージメント(信頼)を高めることではなく、企業のエンゲージメントを高めることです。企業のエンゲージメントとは「人数×信用」であり、お客さまの社内に自社のことを好意的に思ってくれる人がどれだけいるかです。また信用は「タッチポイント(接点)×回数」で算出されます。

 しかし、1人の営業が足しげく通い単純接触回数を増やして信用を獲得するには限界があります。営業1人ではなく、プロジェクトに関わるお客さまを増やし、自社もそれに複数人で対応することで信用を獲得するのが望ましいのです。営業がキレイなROIの資料をつくり「効果があります!」と言うだけではなく、セミナーにきてもらい、自社製品を使用している別の企業の役員から「うちも使っているけれど、この製品とてもいいよ」と、ひと言言ってもらうほうが何倍も効果があったりします。

 他にも自社の役員や技術やアフターの担当者などを連れていき、お客さまと同等の役職・職種の人と意見交換してもらうことで安心感を持ってもらう手段も有効です。

 あらゆるチャネルを使って同じメッセージを伝えて信頼の醸成をしていきます。

4.展開

 エンタープライズセールスは契約が始まりです。1つの部署で使ってもらえたら、隣の部署でも使ってもらえるように契約を「展開」させていきます。そのために重要なのがファンづくりです。導入してビジネス成果が出ればお客さまは社内で評価され昇進するかもしれません。そうなれば別部署にも自社製品・サービスを紹介し、社内営業をしてくれるようになります。

 自社製品・サービスのファンになってもらうためにも、導入後の活用支援は営業活動の一環として捉えるくらいの強い意識を持つ必要があります。

図4 2つの営業モデルの活動の違いとは?
図4 2つの営業モデルの活動の違いとは?
エンタープライズセールス 大企業担当の営業組織が成果を出し続けるためのバイブル

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エンタープライズセールス
大企業担当の営業組織が成果を出し続けるためのバイブル

著者:佐藤亮
監修:松村泉
発売日:2024年11月20日(水)
定価:1,980円(本体1,800円+税10%)

本書について

エンタープライズの営業チームを3年連続で目標達成に導いた著者が、複数の商材を組み合わせた大きな商談で勝ち続けるための営業組織の仕組みを徹底解説。

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