AI活用コンテストも! 社員全員が自然とAIを活用するIBM
──まずは本郷さんの現在の役割についてお聞かせください。
IBMの中ではアーキテクトという立場で、さまざまなソリューションや製品を顧客の要望や課題感を正しく反映したかたちで利用・活用できるように、最適化された提供価値を考えていく提案や支援活動を行っています。とくにSIerやコンサルティングファームとの共創活動を通して、エンドユーザー様が利用しやすい形態を検討する立場です。
現在はAIとデジタルレイバーと呼ばれる自動化ソリューションを中心に取り組んでいます。IBMの強みは、メインフレームのような歴史のある基盤製品とクラウドをトータルで扱えるハイブリッドクラウドとAIというふたつの軸で、大規模な展開が可能な点です。
──IBMは社内でのAI活用も進んでいるとうかがっています。具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?
当社のAI活用で特徴的なのは、自然発生的に広がっていった点です。たとえば、私たちの営業ツールページの右下にいつの間にかチャットボタンが表示され、押すとチャット画面が開いて使えるようになる。とくに大々的なアナウンスがあったわけではないのですが、自然とそういった機能が付加されていきました。
また、全世界共通の取り組みとして、IBM watsonxという生成AIプラットフォームを活用したコンテストを実施しました。日頃の業務課題をどう解決できるか、世界中のIBM社員がチームを組んで知恵を絞り、そのアイデアを競った結果、多くのユースケースの種が生まれています。
営業関連でも見積もりの自動化、電子署名、請求の処理など、多岐にわたってツールを利用しており、最近はそれらのソリューションをAIによってまとめる取り組みも進めています。
──AI活用による具体的な成果はいかがでしょうか。
情報収集の速度が格段に上がりました。IBMの営業プロセスはもともとグローバルで構築された営業モデルに基づき、高度に体系化されています。IBM は規定された営業プロセスとそれに基づくアクションリストが整理され、自動見積もり、電子署名、電子請求、SFA/CRMなど、さまざまなツールが一元的に導入されていました。
しかし、このような高度な体系化は同時に、レギュレーションの増加とツールの多様化、複雑化という課題も生んでいました。この課題に対応するため、私たちはAIエージェントソリューションを社内に導入。これを支えているのが、watsonx Orchestrateという製品です。
watsonx Orchestrateは、ChatGPTのようなナレッジを引き出すだけの一般的な生成AIとは特徴が異なります。さまざまなアプリケーションから個人が参照できる情報を引き出し、それをプロンプトに埋め込んで結果を出力することができます。たとえば、SalesforceなどCRMの情報を呼び出し、取得した答えを前提に生成AIを活用する導き出すことができるのです。
AIが自然な対話の中で必要な情報を引き出してくれるので、複雑な営業支援ツールの使い方を覚える必要はありません。おかげで技術担当者だけでなく、営業メンバーや管理部門のメンバーも容易に必要な情報にアクセスできるようになっています。
このwatsonx Orchestrateを軸としたAIの活用が営業部門に限らず、人事や調達などさまざまな部門に広がっています。たとえば人事部門では、四半期ごとに実施する社員の昇格プロセスにおいて多くのワークロードを削減することに成功しています。
私がとくに強調したいのは、AIの活用は単なる業務効率化だけでなく、人間拡張という観点が重要だということ。以前からさまざまな営業支援ツールは存在していましたが、個人のスキルに依存した分析やプロセス実行といった使い方しかできませんでした。
しかし、AIによってベストプラクティスに基づいた作業が可能になり、新入社員でも高いレベルの業務遂行が可能になります。営業担当として案件の情報を探す場合でも、AIが過去の成功事例や関連情報を自動的に参照し、最適な提案方法を導き出してくれます。
プロンプトエンジニアリングやAIのデータセットを適切に行うことで、ベテラン社員の知見を体系化し、組織全体の能力を向上できるのです。