現状把握によって見えてきた良い点と悪い点
そんな状況で私がバトンを受け取ったわけですが、私は本来マーケティングとプロダクト戦略を管掌していた立場であったため、営業部署から見ると門外漢といえました。そんな背景がある中で最初にやったのは、とにかく現状の適切な“把握”でした。
営業のキーパーソンに実際に話を聞き、SFAに深く潜り込み実態を把握し、まずは徹底的に社内の把握につとめました。すると、次のことが見えてきました。
【〇良い点】
営業の“成功事例”が存在していた
このような状況下でも、数年スパンで歴史を振り返ってヒアリングを重ねることで、成功事例と呼べる営業パターンが社内に存在することがわかりました。
年月を重ね、多くの人が入社してくる中で、成功事例のノウハウが次第に薄れていっていたこと。そして代わりに、我流の“誤った営業手法”が各所に点在していたことがわかったのです。最初の拠りどころとなる事例が見つかったのは幸運でした。
顧客の支持基盤があった
いろいろと混乱している状態ではあったものの、営業メンバーの話を聞いていると「このプロダクトがなくなったら困る」「日々の業務に必須のシステムになっているし、これからも頑張ってほしい」など、顧客から強い支持を受けていることがわかりました。
プロダクトのせいで売れていないという意見もありましたが、どうやらまだまだ勝負ができる状況ではないかという示唆になりました。
思ったより前向きなメンバーが多かった
たいへんなことが多い時期だったものの、メンバー個々人と会話してみると「プロダクトは非常に良いと思う」「業界を変えるために、もっとやれることがあるならやりたい」と、前向きな発言が多くありました。
断片的な情報だけでは判断できませんでしたが、上層部への忖度があるにせよ、思ったよりは良いメンタリティで動けそうだというのは発見でした。

【×問題点】
そもそも“営業の仕事”が理解されていない
もっとも大変だったのはこの点です。話を聞いていると、「なぜ営業だからと言って、数字の追求ばかり受けないといけないのか」「お客様に価値を提供する仕事なのに、達成や未達の話ばかりされるのはおかしい」といった発言をするメンバーが一部にいたのです。
「利益をつくっているから、給与がもらえる」という、当然の原理原則すら教育されていないというのは驚きでした。頭の痛くなる話でしたが、大きな伸びしろだと考えることにしました。
“戦略とは何か”が言語化されていない
戦略不在の状況なのは重々承知していましたが、話を聞いているうちに「そもそも、戦略とは何かがわかっていない」ということがわかりました。
営業組織が行っていたのは、次のようなことでした。
- 目標とする商談数、成約率、成約単価を決める
- ひたすら目標とする商談数を追いかける
これは戦略ではなく、単なる活動計画であり、事業の成長につながる蓋然性がありません。実際、「商談数は足りているが、成約率が伸びていない」といった問題が発生しており、目標未達の温床になっていました。
本当にデータがない
戦略の土台となる過去のデータが本当にありませんでした。もちろん毎月の売上や、企業別の売上などの会計データは存在しました。ただ、営業活動の管理として活用できるデータがまったく足りなかったのです。
- 商談の失注条件が定義されておらず、放置されている実態のない商談が多い
- 成約した商談をあとからSFAに記録するケースが多く、成約率の実態が計測できていない
- SFAに商品の提案内訳がなく、商品別の商談分析ができない
- 商談記録に「他製品で十分とのこと」のひと言しか書いておらず、実態がつかめない
などです。SFAの活用目的が周知されていないというより、そもそも目的を言語化できていなかったため、必要なデータが蓄積されていませんでした。
ちなみに、とくに厄介だったのはふたつめの「成約をあとから記録する」という習慣でした。顧客からの引き合いで、“何もしなくても発注される”商談をこのように扱うことで、追加発注の多い顧客を担当している営業の成績が水増しされてしまうのです。
しっかり提案したうえで失注している営業は評価されず、何もしなくとも受注している営業が評価される。組織を腐らせている根本要因のひとつであり、最優先で変える必要がありました。こうした実態を把握して、営業改革の方針は決まりました。