「PDCA」が形骸化してしまう理由とは?
A社の営業部門の例を見てみましょう。A社は「X地域の従業員300名以上の企業を対象に、年間10億円の売上を達成する」という目標(KGI)を掲げ、期初から営業活動をスタートしました。しかし、半年が経過しても売上は4億円にとどまり、目標達成が厳しい状況に陥ります。
営業マネージャーはこの状況を受けて、「300名以上の企業に加えて、300名以下の中小企業にも営業範囲を広げよう」と方針を変更しました。
この状況をPDCAサイクルに沿って整理すると次のとおりです。
- P(計画):X地域の300名以上の企業を対象に、年間10億円の売上を達成する(KGI)
- D(実行):X地域で営業活動を展開
- C(確認):半年で売上は4億円にとどまり、KGI達成が難しいと判明
- A(改善):300名以上の企業に加え、300名以下の企業にも営業範囲を拡大
一見すると、計画(P)を立てて実行(D)し、確認(C)を行い、改善(A)へと進んでいるように見えます。しかし、これは「PDCAごっこ」の典型例です。このプロセスのどこに問題があるのでしょうか?
評価すべきはKGIよりもKPI
A社の例では、「X地域の従業員300名以上の企業をターゲットにして年間10億円の売上を達成する」というKGIを設定していました。期の途中でKGIの達成率を確認(C)して、新たな計画(P’)を打ち立てています。
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PDCAを正しく回すには、計画(P)の背景にある仮説を検証することが不可欠です。たとえば、A社の場合、もともとの計画の裏には次のような仮説があったはずです。
- X地域は地元で知名度があり、商談が取りやすい
- 300名以上の企業をターゲットにすれば、単価の高い受注が得られる
この仮説が正しいのかを確認できなければ、次の計画にうつっても同じような壁にぶつかってしまうでしょう。そこでまず行うべきは、当初の計画の背景にある仮説を数字で確認できるようなKPIを設定し、評価することです。A社のKPIは、次のようなものでした。
- 量:毎月、X地域の300名以上の企業に20件のアポイントを取る
- 質:商談の単価を20%アップさせる
これらのKPIをもとに、目標(KGI)達成に向けた行動が計画通り進んでいるかを確認することが重要です。
しかしA社の場合、売上目標10億円に対し、半期の実績が4億円にとどまったという「事実だけ」をもとに、「300名以下の企業にも営業範囲を広げる」という判断を下しました。この決定は、元の計画(P)に基づく仮説の検証(C)を経ずに行われており、PDCAの本来の流れから外れ、結果として、新たな計画(P’)を生み出しています。
このような状況は「PDCAごっこ」と呼ばれ、PDCAの代わりに「PD」を繰り返す誤ったPDCAで、なかなか成果が出せない典型例です。仮説をもとにしたKPIをしっかり検証し、必要に応じて計画を部分的に修正することで、PDCAは初めて効果を発揮するのです。