ビジョナリーセールスは難しい……「FIREフレームワーク」を身につけよう
──ビジョナリーセールスが本質的な営業スタイルであることは理解できても、「とはいえ、難しそう」という声もあります。どのように考えて、実践すれば良いでしょうか。
大前提として、ビジョナリーセールスは難しいです。ですから、「昨対比売上1.5倍」くらいの目標を達成するだけなら、この手法をわざわざとる必要はないと思います。ビジョナリーセールスは、4倍、5倍の成長を目指す営業のやり方。これが前提です。
そのうえで、具体的なポイントがふたつあります。S1でも提唱した「FIREフレームワーク」の「R」にあたる、リソースに関する考え方です。
ひとつめは、「全部自分だけでやらない」こと。私が会社員時代に上司に同行してもらいながら、上司の持つリソースを活用したように、お客様の課題や業界の知恵は社内のいろいろなところに転がっています。上司や同僚、ベンチャー企業なら社長のリソースも頼りにできるかもしれません。
ふたつめは、「自分で社内のリソースをつかみとる行動を起こすこと」。いつまでも誰かのリソースだけに頼っていては、成長できません。当社のインターン生は社内の交流会に参加したり、自分で交流会を開催したり、主体的にリソースを集積しています。
──なるほど。集めた社内のリソースを提案に活用するために、工夫していることはありますか。
当社では、社員自身が持っているリソースをマインドマップでまとめるようにしています。マインドマイスターというツールで、ひな形に沿ってリソースを整理し、週1回更新してもらっています。
普段、隣で仕事しているだけでは、その人がどんなリソースを持っているかまではわからないですよね。可視化することで、社内の共通のリソースとして使える状態になる。社内の知識をためるナレッジツールを使っている企業は多いと思いますが、そのリソースバージョンを構築しているイメージです。
そして、月に1回、各営業メンバーが提案の切り口やテーマを相談しあう、ブレスト的な会議があります。そこでリソースのマインドマップを参照することで、アイデアの幅が広がっていきます。
お客様に「仮説をつくってもらう」ワケ
──実際に顧客に提案する際には「FIREフレームワーク」の「I」、仮説も重要なポイントかと思います。どのように組み立てるのがよいでしょうか。
お客様に仮説を立ててもらうことが重要です。営業がビジョンを提案するとなると、こちらで答えを用意しなければいけないという思考に陥りますが、実際にその業界について詳しいのはお客様のほう。まずはお客様自身に、業界の実情に沿った仮説や課題を考えてもらいましょう。
さらにポイントなのが、社長や決裁者だけではく「担当者」にも仮説を考えてもらうことです。同じ業界・企業でもそれぞれのレイヤーによって見え方が異なるので、営業はそれを俯瞰するのです。その視点を統合した仮説に、こちらが持っているリソースを組み合わせることで、提案が進んでいきます。ある意味、コーチングのような役割を担っているとも言えるでしょう。
──仮説はお客様に考えてもらう。その前提で、そこに組み合わせるリソースのパターンは、営業が準備しておく必要があるわけですね。
そのとおりです。いくらお客様が仮説を話してくれても、こちらから提供できるものがなければ意味がありません。営業はヒアリングしながら、どんなリソースを当てはめられそうか検討し、用意した複数のパターンから少しずつ提案していく必要があります。