ABM導入にいちばん反発するのは営業部門
──まず、ABMの定義を教えてください。

1990年、シンフォニーマーケティングを設立。35年間で約600社の企業に対しBtoBマーケティングのコンサルティングを手がける。各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティング&セールスの戦略立案、組織再編、人材育成などのサービスを提供。海外のBtoBマーケティング関係者との交流も深く、世界最先端のマーケティングを日本に紹介している。中央大学大学院ビジネススクール客員教授、早稲田大学大学院 WASEDA NEO 講師、IDN(InterDirect Network)理事、「日経クロストレンド BtoBマーケティング大賞2024・2025」審査委員長。著書に、『法人営業は新規を追うな 重要顧客と最高の関係を築くABM』(日経BP)『儲けの科学 The B2B Marketing』(日経BP)、『BtoBマーケティング偏差値UP』(同)など多数
シンフォニーマーケティングでは、ABMを「特定の重要顧客と最良の関係を築くことで、強い顧客基盤を構築し、収益を最大化することを目的にした全社的なマーケティング戦略」と定義しています。代表的なマーケティング手法に「デマンドジェネレーション」がありますが、ABMはその進化系と捉えるとよいでしょう。
デマンドジェネレーションでは、「○○人規模の○○業界の会社」など広範囲にターゲットを定め、ホワイトペーパーやメールマガジンなどのコンテンツを配信し、受注確度の高い見込み客のリストを営業に引き渡します。
一方のABMは、定義に「特定の重要顧客」とあるように、ターゲットをバイネームで特定できるところまで絞り込み、その企業に合わせてつくったコンテンツを配信します。デマンドジェネレーションは“網”、ABMは“銛”のイメージです。

ターゲット選定は、ABMの成否を左右する重要なプロセスです。「特定の重要顧客」は基本的には既存顧客の中から選びます。理由としては、ABMでは顧客情報を分析・活用してコンテンツを作成するため、社内に情報が蓄積されている既存顧客をターゲットにするほうが、新規顧客をターゲットにするよりも成果が出やすいことが挙げられます。
その既存顧客の中から「売上の“のびしろ”が大きい順」にターゲットを絞り込みます。「既存顧客に売上の伸びはさほど見込めない」と考えている方も多くいますが、決してそんなことはありません。実際に、世界のABM成功事例のほとんどは既存顧客をターゲットにしており、営業の売上を何倍にも引き上げています。
また、ABMはこれまで営業とマーケティングの連携に重点を置いて語られてきましたが、近年では「全社的なマーケティング戦略」として位置づけられるようになっています。昨今のABM事例から、営業とマーケティングだけではなく、ものづくり部門やカスタマーサクセス部門なども連携しなければならないことがわかってきたのです。
──営業部門においても、ABMの認知や理解は広まっていると感じますか。
まだまだ知らない人は多いですね。また、営業がABMを誤解してしまっているケースも少なくありません。実際、ABM導入時に営業部門がいちばん反発します。しかし、導入から半年後にABMをいちばんありがたがっているのは誰かというと、それもまた営業部門なのです。営業から見たABMは、実は非常に面白いのです。