「紙と実印文化」の不動産業界 契約書のデジタル化へ
──まずは相鉄ビルマネジメントの事業内容と、井上さんの役割を教えてください。
当社は不動産賃貸業を運営しており、横浜駅西口周辺や相鉄線沿線を中心とする商業施設・オフィスビルの運営管理を行っています。私が所属する運営事業本部 営業サービス担当では、各営業所の営業担当がテナントと交渉した内容を集約し、契約書の締結業務を一元的に担っています。
──契約DXに着手した当時、相鉄ビルマネジメントはどのような課題を抱えていたのでしょうか。
ひとつが、不動産業界に依然として残っている紙と実印の文化により、情報を共有できないことです。当社は約130棟の施設を運営管理していますが、テナントとの契約書はすべて本社で管理しており、営業担当が過去の契約内容を確認するには本社へ出向く必要がありました。これにより、ひとつの企業のテナントが複数の施設に入居している場合、自分の担当エリア以外の契約内容がわからないという問題が生じていたのです。
ふたつめがテレワーク推進の問題です。コロナ禍により、当社もテレワークを実施しました。しかし、過去の契約締結日や付帯契約など、営業担当がテナントと交渉する際に必要な情報は本社に出社して確認しなければなりません。全社員が自宅から契約内容を閲覧できる環境を整える必要がありました。
また、BCP(事業継続計画)の観点も重要でした。災害により契約書が消失してしまえば、復興後に事業を存続できません。万が一に備え、契約書の原本に加えてデジタルでも保管したいという期待がありました。これらの3つの理由から、契約データベース「Contract One」を導入して契約書のデジタル化に着手したのです。
──顧客企業へ複数の事業部・営業担当がアプローチする際の情報共有には、不動産業界に限らず、共感する営業組織は多いと思います。どのようにして契約書のデジタル化を進めたのでしょうか。
いちばんの目的は、全社員の各自のパソコンで契約内容を確認できる環境をつくることです。契約書を作成してテナントと契約を締結するまでは従来と同じですが、それをデータ化し、全社員が閲覧できるクラウド上での管理を開始しました。
さらに契約担当だけでなく、営業担当にとっても契約書を身近なものにしたいと考えました。我々の部署が率先して契約データベースを運用し、営業担当が閲覧したくなるような使いやすい環境を整備しています。たとえば、契約書のデータのネーミングについてルールを設けました。これにより、複数の施設に展開している企業のうち、自分が担当する施設のテナントの契約書をすぐに検索できるようになりました。