「ロールモデルがいない」 女性MRがぶつかる壁
──はじめに、日本イーライリリーの事業内容と営業組織について教えていただけますか。
水田 日本イーライリリーは、イーライリリー・アンド・カンパニーの日本法人です。患者様が健康で豊かな生活を送れるよう、日本で50年にわたり世界水準の医薬品を開発・提供してきました。現在はがん、糖尿病、アルツハイマー病などの中枢神経系疾患や自己免疫疾患など、幅広い領域で日本の医療に貢献しています。2024年末で全社員数は約2,800人、そのうち営業社員(MR)は約1,400人が所属しています。
営業部門はオンコロジー事業本部、自己免疫事業本部、ニューロサイエンス事業本部、ダイアベティス・オベシティ・心・腎領域事業本部と4つの事業本部に分かれ、顧客であるドクターや医療従事者に情報提供をしています。私が所属する本社部門では、戦略策定や資材作成、教育研修を横串で展開しています。
──MRならではの難しさや課題を教えてください。
水田 製薬業界に共通して言えることですが、生命に関わる領域であり、倫理観と厳しいレギュレーションが求められます。加えて日本イーライリリーの特色として、新薬を開発・提供していることが挙げられます。治療の新しい選択肢や安全性などをご理解いただくため、ドクターや医療関係者に科学的な最新情報を届けます。
その中で営業活動を行うのは難易度が高いですが、我々の活動は、患者さんの健康へ貢献することに直結します。日本イーライリリーでは理系・文系を問わずMRの人材を採用していますが、新入社員は6ヵ月かけてトレーニングを行い、製薬業界で定められたMRの資格試験のほかに、当社独自のトレーニングも設けています。業界としてMRのクオリティを高める努力を継続しています。
──高い水準での知識習得や規則遵守のもと、営業活動をしていく。非常に難しいと思います。そうした中で、とくに女性MRのキャリアや働き方にも課題を感じていたそうですね。
米田 そもそもMR全体として45歳以上の割合は少なく、ロールモデルがいないために長く続けるイメージがわかないという課題があります。その中で、女性MRの管理職のロールモデルはさらに少なくなります。

水田 とはいえ、当社の女性管理職の比率はけっして低いわけではありません。本社も含めた女性管理職は全体の30%を超えており、製薬業界の中では高い割合と言えます。しかし若手のMRが自分のロールモデルを探すには、まだまだ人数やバラエティが少ないのも事実です。
──そうした課題を解決するため、日本イーライリリーでは、どのような方針・施策を掲げているのでしょうか。
水田 日本イーライリリーでは、企業戦略のトップラインのひとつとしてインクルージョンの取り組みを掲げています。その一環として、同じ特質や価値観を持つ社員を公募し、業務として社員の多様性を高める活動を行う社員リソースグループ(ERG、Employee Resource Group)の活動を会社全体で推進しています。
現在は4つのグループが自主的な活動を行っていますが、その中で最初に結成されたのがウィメンズに関するグループです。
──2017年から新世代エイジョカレッジ(エイカレ)に参加されています。どのような狙いや期待があったのでしょうか。
水田 諸外国に比べて、日本ではジェンダーの問題がまだまだ大きい。産休・育休制度といったハード面だけを整備してもこの問題は解決できません。女性管理職割合を指標としながら、その過程で課題を洗い出したり、継続的な会話を生み出したり、ボトムアップかつ統合的な活動を推し進める。そうした考えのもと、エイカレへの参加に至りました。