リモート社会推進室が挑んだデジタル時代の営業改革
──石橋さんは育休から復帰後、「リモート社会推進室」に配属されたそうですが、当時の背景や配属の経緯をお聞かせください。
私が復職したのは2020年、ふたりめの出産後です。当社は求人広告をはじめとした人材領域のサービスを提供していますが、休んでいる間に求職者の仕事探しの方法に大きな変化がありました。求人サイトを訪れるのではなく、検索エンジンで条件を入れて検索する方法が主流になりつつあったのです。また、コロナの影響で対面での商談が難しくなり、オンラインでのコミュニケーションも増えていました。
このような変化に対応するため、リモート社会推進室が新設されました。
──コロナ禍を背景に急激な変化を迎えた営業シーンに対応するために「リモート社会推進室」が生まれたと。具体的にはどのような役割を担うのでしょう。
役割は大きく分けてふたつ。ひとつはマーケティングによる営業強化、もうひとつはデジタルを活用した営業活動の効率化です。
先ほどの変化に伴い、営業現場ではウェブを基軸としたサービスを中心に、複数の求人手法を組み合わせた提案が主流となり、採用から人材の定着化・戦力化まで幅広い支援を行う機会が増えてきていました。
また、時代や顧客ニーズの変化に合わせて営業体制を見直す企業も増える中、当社では地域密着の折込求人紙を発行している特性上、細かいエリア分けによる営業体制を継続せざるを得ない状況にありました。組織面の課題としては、顧客情報の管理が紙の名刺ファイルに頼っているなど、アナログな面が多くありました。また、テクノロジー面では、オンライン商談での名刺交換の難しさや、全社的な顧客状況把握が困難だったことがあげられます。アナログな営業スタイルをデジタル化し、リモート・対面、インサイドセールスやMAの活用など、すべての手法を融合した新しい営業体制の構築が急務となったのです。
──その課題に対して、どのような取り組みをされたのでしょうか。
まず、名刺管理ツールとしてSansanの導入を進めました。活用しているSalesforceとの連携が可能で、一部の営業担当者が名刺アプリのEightを個人的に使用していたという背景もありました。最初は50名の営業から試験的に導入を始めました。
導入自体はスムーズでしたが、活用が進むまでには工夫が必要でした。一例ですが、デジタル名刺の設定率を上げるために、求人原稿をつくっている部署に協力してもらって希望者には写真入りのオンライン商談用名刺画像を作成するサポートを行いました。
また、名刺取り込みの習慣化を促進するため、その後どのようなマーケティング施策を実施するのかを説明する動画も作成しました。営業担当が取り込んだ名刺情報がどのように活用され、最終的に営業活動にどう貢献するのかを理解してもらうことが大切だと考えたんです。
ほかにも定期的に勉強会を開催したり、社内のコミュニケーションツールであるTeamsに専用のチャンネルを設けたりして、ベストプラクティスを共有しました。
とくに効果があったのは、新しいデジタルツールに興味関心の高い「社内インフルエンサー」的な方々の協力です。彼らの成功事例や活用方法を共有してもらうことで、ほかの社員のモチベーション向上にもつながりました。
アプローチ対象者数が4年で16倍 顧客・営業からの好反応
──コンテンツマーケティングにも取り組まれたそうですね。
GoogleやYouTube広告など新しい採用広告手法の紹介や、面接に関するコンテンツなどを作成しました。とくに面接関連のコンテンツは、ホワイトペーパーとしてダウンロード可能にしたところ、非常に好評でした。
Web商材販売チームの協力を得て実際に顧客と接している営業現場の声を反映させることで、より実践的で価値のあるコンテンツになったと思います。
数字で表せる成果としては、アプローチ対象者数が4年間で16倍に増加し、1.3万人から21.5万人になりました。メールの到達率も89%から99.7%に向上し、お客様からの返信率は月間約5倍に増加しています。
さらに、問い合わせから売上までのリードタイムが3分の1に短縮されました。これは、SansanとMAツールを活用してお客様の興味・関心に基づいたアプローチができるようになったことが大きいですね。
──かなりの成果を感じますね。一方で、定性的な成果はどうでしょう。
まず、営業担当者が顧客との対話や提案準備に、より多くの時間を割けるようになりました。また、お客様からの自発的な情報提供や、一度配信停止にされた方から「役に立つのでまた受信したい」とメール配信の再開依頼をいただくなど、コミュニケーションの質も向上しました。
さらに営業現場からも、データに基づいて優先順位をつけられるようになり、より効率的な営業活動ができるようになったと好意的な反応がありました。