成功体験が「プロダクトアウト志向」を変えた
高橋(才流) ヤプリは2013年に創業後、他社に先駆けてカスタマーサクセスに取り組まれている印象があります。ヤプリにおけるカスタマーサクセスの位置づけについてお聞かせください。
庵原(ヤプリ) ヤプリにとってカスタマーサクセスは、単なるチャーンレートの改善やリテンションのための言葉ではありません。自社が成長するうえで必要不可欠なものが顧客の成長だと捉え、2017年より4つあるコーポレートバリューのひとつに位置づけています。
実は、ヤプリはもともとプロダクトアウトの視点が強い会社だったんです。創業から数年は「こんなに良いものをつくったのだから、使ってもらえるだろう」と、カスタマー視点が足りていませんでした。
変わるきっかけとなったのが、アパレル企業を対象にした成功体験です。厳しい状況が続く中でヤプリのサービスが刺さる業界を探していたところ、アパレル業界では紙ではなくアプリでクーポンを発行したいというニーズがあることがわかり、顧客と一緒にクーポン機能をつくったのです。するとこれがアパレル業界の方々に好評を博しました。そこで、その次はポイントカード、今度はスタンプカードと、顧客の課題を解決するための施策を矢継ぎ早に実装した結果、業界内に深く入ることができたんです。
庵原 アパレル業界で実績を積み、飲食店や食品業界、商業施設など業界ごとの導入が広がっていきました。業界特有の課題を解決するために、課題を徹底的に縦に掘り下げ、プロダクトを改善していくことで、結果的に導入いただく企業が増え、横の広がりにつながる。この経験から、成長していくためには顧客の成功体験こそが重要なのだと考えるようになりました。
考え方の変化とともに、セールスの方法も変えました。もともとは中小企業向けのプロダクトを想定していたため、価格も抑えてこちらから積極的に提案するスタイルではありませんでした。ただ、意外と大手企業からの需要もあり、彼らに成果を届けるためには充実した支援が必要だとわかってきました。そこで、しっかりと対面で説明し、アフターフォローにも注力する半面、単価も大きく上げたところ、売れるようになりました。
高橋 カスタマーサクセスを重視してさまざまな仕組みや施策を実行する中心にいらっしゃるのが、2018年に入社した市川さんです。これまでの経歴や、立ち上げ時期の活動についてお聞かせください。
市川(ヤプリ) もともとAppleにいて、その後はブレインパッド、オラクルを経てヤプリにジョインしました。キャリアのほとんどは営業でしたが、オラクルにいたころにカスタマーサクセスを経験しています。既存顧客を中心に、これまでのスキルを活かして顧客の成功に寄り添える点に魅力を感じ「自分が考える理想的なカスタマーサクセスをつくりたい」という思いで、プロダクトや人柄に魅力を感じたヤプリに転職しました。
当初は、導入企業もそれなりに多く、導入企業へのオンボーディングも丁寧だと感じていました。一方で、プロダクトを納品した後のフォロー体制に改善の余地があると考え、200社いる中で少しでも多くの顧客のもとに足を運び、困りごとやニーズを掘り下げて、どう支援していくべきかを検討していったのが当初の仕事です。
市川 その結果「導入したものの効果の測り方が難しい」「どう運用していけばわからない」など、導入後のビジョンや目的を描けない顧客が多いと感じ、まずはアプリの運用方法や目的の定義づけを進めていきました。顧客が使い続けて成功することでヤプリとしてもビジネスが成長して、さらにプロダクトが成長して顧客へと成果を還元するサイクルが生まれます。こうした考えから、顧客自身が自走して成功できる仕組みを考えていきました。