顧客への提供価値について議論する「りそなガレージ」
高橋(才流) 本日はりそなグループアプリ、そしてりそなさんのカスタマーサクセスの取り組みについておうかがいしていきます。
熊倉(りそな) カスタマーサクセスという言葉をりそなが使うようになったのは、りそなグループのデジタル部門が再編され、現在私が所属するカスタマーサクセス部が創設された2021年からです。しかし、それ以前からりそなは「お客さまへの提供価値」をずっと考えてきました。従来の銀行業務では、主に対面サービスを通じてお客さまとの関係を築いてきました。しかし、デジタル化が進む中で、お客さまのニーズも変化してきています。そこで、デジタルを活用した顧客体験の提供を通じてカスタマーサクセスの実現を目指すのが現在のわれわれの大きな役割のひとつです。
高橋 デジタルの活用にチャレンジするにあたって、ポイントとなっているのが本日取材を実施している「りそなガレージ」だとうかがっています。
熊倉 従来の銀行の組織構造や意思決定プロセスでは、急速に変化するデジタル環境に対応するのが難しいと感じており、2020年9月に共創地点「りそなガレージ」をオープンしました。目指すのは「脱・銀行」。つまり、銀行らしくない発想で顧客への提供価値を最大化するための場所で、4社のITベンダーさんが常駐しています。また、当社からはデジタル企画部門のメンバーや、IT業界出身のメンバーなど、いわゆる「銀行員ではない」人も集まって議論をしています。りそなガレージではスーツも禁止です(笑)。
スペースのレイアウトも3ヵ月に1回ほど組み替えます。従来の銀行員は、どうしても資料づくりなどの作業に力を入れがちで、顧客についての議論が足りていない。新しいレイアウトでは、議論中心のスペースをたくさん用意することで、自然と顧客や事業について議論が始まるような場づくりを意識しています。
高橋 素敵ですね。一方で「場」をつくるだけでは、これまでの議論や意思決定のプロセスを変えていくのは難しそうです。
熊倉 まさに難しいですし、従来のやり方に戻るのはかんたんです。だからこそ、運営する側、リーダー的な立場の人間がどれだけ愚直に場づくりを継続できるかにかかっています。アプリ立ち上げ当初から、りそなガレージの前身のような場所を用意しました。というのも新しいことを始める際は、どうしてもさまざまな部門との協議が必要なシーンが多数発生します。そこで、あえてほかの部門を遮断し、立ち上げメンバーだけで徹底的に議論に専念できる場を用意しました。
高橋 デジタルで新しいユーザー体験を届けるために、そういった仕掛けが必要だったんですね。
熊倉 従来どおりの進め方では、どうしても全体最適や過去の慣習にとらわれてしまうことはあります。スマホでサービスを始めることに対して「やれるもんならやってみろ」という感覚の社員がいたのも事実だと思います。なぜなら、これまでの銀行の収益の約8割は「直接お会いできているお客さまとのビジネス」のなかで生まれていたからです。
とはいえ、事業を成長させていく中では、お客さまとの接点の持ち方をより広げていくことが必要です。そこで、これまで会えていなかったお客さまをターゲットとして2018年にスタートしたのが、りそなグループアプリというわけです。アプリであれば、銀行にお越しいただくことなく、口座開設も振込もすることができますから。
高橋 累計820万ダウンロードを突破し、多くのユーザーに愛されているアプリだとうかがっています。
熊倉 顧客体験、顧客価値をさらに追求するための下支えはデジタルとデータです。りそなガレージの中で育った個人向けのアプリ開発の考え方を法人にも転用し、2023年10月には法人向けのアプリもリリースしました。銀行が法人向けに利便性を提供するときは有料の施策が基本になることが多いですが、これは基本利用料無料で、残高照会や納付書支払いなどの機能を提供しています。
そのほかの共創チャレンジとしては、地域金融機関さんと連携し、金融デジタルプラットフォーム戦略というカテゴリーでサービスを稼働させています。地域金融機関さんとは支店を中心とした対面営業では競合することもありますが、デジタル上のサービスでは、りそなと手を組むことでお客さまにメリットを提供しようという考えに賛同してくれている地域金融機関さんとサービス開発に取り組んでいます。アプリにかかわるベンダーさんと同じく、この場所で一緒に議論していますね。