企業全体が営業組織として動くべき
久我(ウイングアーク1st) 高度経済成長期は、世界的にも需要が強かった時代です。企業が自社の製品を供給する上で、もっとも大きな役割を担っていたのは間違いなく営業だったと思います。さらに営業担当者は、対お客様のフロントマンとしても全責任を負っていましたよね。
久我 ところが時代とともに需給の関係は変化し、ビジネスの競争環境も変わりました。最近はテクノロジーのコモディティ化が進んだことにより、テクノロジードリブンな企業が発揮していた競争力も徐々に失われつつあるような気がしています。営業組織は昔と今で何が大きく変わったのでしょうか。皆様のお考えを聞かせてください。
祖谷(アドビ) 以前は、お客様との接点である営業職が利益を上げる大きなレバーとなっていました。今もその点に変わりはないと思います。一方、マーケティングや広報などの、いわゆる“ポストセールス”と呼ばれる領域は、営業利益という視点で見るとあまり重要視されていませんでした。ことBtoBビジネスにおいてはその傾向が顕著でしたよね。
祖谷 当社が展開するSaaSビジネスの場合、お客様に製品を買っていただくことはもちろん、使い続けていただくことが大事です。お客様がサービスや製品を使って成功して初めてビジネスが成立する。そう考えると、営業プロセスの前を担うマーケティングや広報、さらに後を担うカスタマーサクセスも、ビジネスに大きな影響を持っていると言えます。現代の営業組織は営業職だけが構成するものではありません。企業全体が営業組織として動かなければ立ちゆかない──そんな時代になっている気がします。
分業化以前も分断は起こっていた
日比谷(kipples) SaaSビジネスの台頭にともない、ここ10年で「The Model」のような考え方が広まりました。広報担当者のポジショントークをさせていただくと(笑)、営業プロセスのスタート地点に広報を置いて機能させたほうが良いと考えています。前段の「認知獲得」を担う役割として、営業やマーケティングに広報の機能が加われば、組織はもっとパワフルになるのではないでしょうか。
今井(セレブリックス) これまでは個人戦だった営業職が、最近はチーム戦になってきたと感じます。旧来の営業組織では、個人でトップセールスになることを輝かしい実績と捉えていました。一方、最近の営業組織ではデジタルを活用して顧客情報を共有し、ひとつの企業から契約を獲得するためにチームで連携する流れが強まっています。根本的な考え方が変わってきているため、営業の適正人材も今と昔で異なるはずです。
祖谷 今は「名プレイヤー」ではなく「名マネージャー」「名監督」みたいな人が求められているのかもしれませんね。よくある話として、マーケティング担当者がお客様のウェブ行動を把握している一方、営業担当者は知らずにアプローチをしてしまうケースがあります。お客様にとってはうんざりする体験です。このケースも「営業=チーム戦」であることを裏付けています。
今井 The Modelなどの文脈で「分業したことにより、セクション/プロセス間でお客様の情報が正しく共有されなくなった」という指摘がありますが、僕はその意見に懐疑的です。「本当にそれって、分業化の問題なんだっけ?」と。分業化していなかった時代は営業担当者1人ひとりの頭の中に情報が眠っていて、担当者同士で共有されていませんでしたよね。つまり、これまでも分断は起こっていたんです。縦の分断か横の分断かという違いだけ。結局「マネージャーがしっかりしましょう」という言葉に尽きます。
久我 お客様の解像度をメンバー同士で合わせるためにも、情報の流通は大事ですよね。そこが上手いチームは足並みが揃っている。足並みが揃っているということは、各ファンクションが結合しやすい状態なので、効率が良いとも言えます。