「お客様起点」のデータアナリティクスへ転換
そもそも、みずほ証券の営業活動には、どんな課題があったのだろうか──。伊藤さんは、この点について「証券会社として多くのお客様に対して、多種多様な商品を展開している事情があり、次のベストな一手を導き出す難易度は非常に高くなっていた」と話す。
営業担当者の知識や経験に頼っていたことで、提供するサービスの質にもバラつきが出てしまっていた。伊藤さんは、「支店営業における接点から生まれる“つながり”や、長年の知識や経験を否定するものではありません。むしろ大切な財産だと認識しています」としつつも、関係性やノウハウが継続的に引き継がれることがなく、担当者の変更などによって分断されてしまうことがあった、と課題を振り返る。
このような「知識」や「経験」をいかにデータ化すべきか、という議論はこれまでも行われてきたという。一方、課題として、データが部門ごとに蓄積されてしまう「サイロ化」が起きており、総合的な利活用に至っていない課題もあった。
伊藤さんは、「データを現場で活用すること自体には早期から取り組むことができていたものの、手法については属人的になっていました。たとえば、支店であれば支店長やマネージャーが経験に頼ったデータ活用をしてしまっており、分析の粒度もまちまちだったのです」と話す。
そんななか、みずほ証券はデータアナリティクスの取り組みについて、見直しを図った。伊藤さんによれば、「従来はプロダクト・商品起点になってしまっていたのですが、これをお客様起点のものへと転換しました」とのこと。新たに、「顧客が求めるものを見つけていく」ことがデータアナリティクスの目的として据えられることになった。
「我々は、対面証券会社という立場であり、自社ならでは、そして担当者ならではの付加価値を追求していく必要があります。そこで、スタッフ1人ひとりのお客様へのコンサルティング力を補完するために、マーケティングシステムの導入を通じ、組織として、営業の生産性、お客様の利便性の向上をすべきと考えました。そこから取り組みの検討に入りました」(伊藤さん)
営業手法を改革するプロジェクトが立ち上がり、約1年が経過したところで、専属チームも発足された。メンバーとしては、伊藤さんを筆頭に、みずほフィナンシャルグループの企画、マーケティング、データ分析・集計などの経験者が集まった。さらに、支店のマネージャー経験者、システム開発会社から出向した者なども加わり、多様なキャリアを持つメンバーが、データアナリティクスの運用に関わっている。