オンラインシフト成功の鍵は正確な顧客データ基盤づくり
2007年6月に創業したSansanは、「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに掲げ、法人向けクラウド名刺管理サービスの「Sansan」と、無料の名刺アプリ「Eight」を軸に事業を展開し続けている。Sansanの契約件数はいまや6,000件を超え、クラウド名刺管理市場のシェアを83%も占める。営業やマーケティングなどのフロント部門だけにとどまらず、全社的に導入を進める大手企業も多い。
新型コロナウイルスの蔓延により、企業活動のオンラインシフトは急速に進んだ。オフラインと変わらない業務のあり方がオンラインでも求められ、基幹業務のクラウド化や営業活動のオンライン化を支援するベンダーは売上を大幅に伸長させている。
「この先、事態が収束してもビジネスプロセスが完全に元に戻るとは考えていない」と話すのはSansanの久永航氏だ。社会の変化を想定し、接触を前提としない企業経営に変えていく必要があると久永氏は続けた。
一方で、オンラインシフトの波に乗り遅れてしまった企業も少なくない。ITRが2020年4月に行った「コロナ禍の企業IT動向に関する影響調査」によると、従業員数50名未満の企業中7割以上の企業が「社内のすべての情報は、社外では利用できない」と回答しており、急激な社会の変化に対応するためのインフラを整備しないままコロナ禍を迎えたことになる。
久永氏は、オンラインシフトを成功させるポイントを以下の4つに絞って紹介した。
これらのポイントをカバーするためにはデータを一元化し、正確な顧客データ基盤を作ることが必要不可欠だが、そこにはいくつかの課題が立ちはだかる。
まずは時間に関する課題だ。フロントメンバーは日々の顧客対応に忙しく、データの入力やメンテナンスに充てる時間を確保できない。せっかく手に入れた名刺情報はチームに共有されず、個人の管理下に留まってしまう。
次に、正確さに関する課題だ。企業名の表記ゆれなど、入力内容の不備や重複によって顧客データが正しく紐づけられないまま蓄積されてしまうこともある。
さらに、オフィスの移転や個人の部署異動があっても情報が更新されない陳腐化に関する課題もある。1年あれば約22%の顧客データは変わると言われており、更新されないデータは活用することができない。結果としてPDCAサイクルが長期化し、顧客との接点をタイムリーに持てず機会損失につながるというわけだ。
すべてのデータを企業単位に名寄せできるSansan Data Hub
正確な顧客データの管理と活用にどう取り組めばよいのか。Sansanが行った調査によると、SFAやCRM、MAなどに蓄積されている情報のソースとしてもっとも参照されているのは名刺データだという。したがって、まずは名刺データを起点に顧客データを一元化することが第一歩となる。
名刺が示す情報は主に3つある。相手の最新かつ正確な「プロフィール」、相手と接点があったという出会いの証、すなわち名刺所有者の「人脈」、そして人脈から読み取れる名刺所有者のビジネスパーソンとしての「強み」だ。どういう業界の名刺を多く持っているか、どういう役職の人と会っているかを分析することで、名刺所有者のナレッジや得意分野を理解することができる。
オンラインコミュニケーションツールを活用した商談が増える一方、名刺交換という本来オフラインで行われていたイベントはデジタル化されず、初めての商談や複数名が参加する打ち合わせで同席する全メンバーの正確なプロフィールを把握できないケースが多発している。それを受けてSansanはオンライン名刺機能を2020年6月にリリースした。接点がオンラインになってもオフラインの名刺交換と同じようにビジネスプロフィールの交換を行えるというものだ。
「Sansan=名刺管理ツールの会社」というイメージが強いが、提供するソリューションは多岐に渡る。中でも、社内に散在する顧客データを統合・整理し、最適なマーケティングデータに進化させる「Sansan Data Hub」は名刺管理にとどまらない総合的なSales Techと言える。
Sansan Data Hubの最大の特徴は、すべてのデータを企業単位に名寄せできる点にある。名刺管理で培われた名寄せのノウハウをもとに、CRM、MA、SFA、ERPなど社内のあらゆるところに眠るさまざまな顧客データを統合できるのが強みだ。さらに、統合した情報に帝国データバンクなどのサードパーティーデータを組み合わせることで顧客データをリッチ化できる。
異なるデータ間における名寄せが難しい理由として、突合キーとなる「同じ文字列」を持っていないことが挙げられるが、Sansan Data Hubならアルファベット表記の「Sansan」、漢数字の「三三」、平仮名表記の「さんさん」に法人番号という共通の文字列が付与されるため、それらがすべて同じ法人を表していると正しく判定することができる。また、名刺に記載されている社名やドメインが変更されていても、辞書とAIを用いて表記違いを考慮しながら名寄せすることが可能となる。
「社内に散在する顧客データや今後増えていくオンラインの接点をきちんと統合し活用できる状態にすることが、冒頭で触れた正確な顧客データ基盤づくりにつながっていきます」(久永氏)
MAとの組み合わせで利益創出 案件創出額2.3倍の事例も
正確な顧客データ基盤を具体的にどのようにセールスやマーケティングに役立てていくべきか。久永氏はポイントとして「シンプルなセグメンテーション」と「インサイドセールスとの目線合わせ」の2点を挙げた。
部署別にセグメントを行いアプローチする方法は一般的だが、ここで重要なのは部署名の判別だ。たとえば、「人事部」「人材開発部」「ヒューマンリソースマネジメント部」がすべて人事系の部門であることをSansan Data HubはAIを使って自動的に判別する。同様に、人物の肩書きの名称がバラバラでもAIが数値化によって役職の等級を判定するため、各部門や人物に対して適切なマーケティング活動を行える。
また、せっかくリードを獲得しても、対応するインサイドセールスのリソースが空いていなければタイムリーにフォローすることができない。インサイドセールスが求めるリード数やゴールアクションから逆算してメールの最適な送付母数と送付タイミングを調整するといった連携が重要だ。
Sansan社内でも、従来は多忙なフロントメンバーが手動で情報をクレンジングしたり、社内で辞書を作成したりしていたが、現在はSansan Data Hubとマーケティングオートメーションを組み合わせることで多くの作業を自動化している。正確でリッチなデータ基盤によって、顧客データの正規化率が約3割、詳細情報の付与率が約6割向上した。Sansan Data Hubにはマーケティングオートメーションの効果を最大化させるというメリットもある。
Sansan Data Hubとマーケティングオートメーションの効果的な組み合わせは、大手BIツールベンダーであるウイングアーク1st社の事例にも見ることができる。同社ではSansan Data HubからSalesforceに対して顧客情報のアップデートが自動的に行われる仕組みを活用したことで、名刺の役職名が正しく統一され、キーパーソンとの接点が可視化された。新規顧客の獲得はもちろん、既存顧客のフォローアップ強化により解約率低下にもつながっているという。
早くからデジタルマーケティングに取り組んでいたNECソリューションイノベータは、過去に自社で獲得したリード情報の名寄せ、クレンジング、リッチ化を手動で行っていたが、SansanとSansan Data Hubを活用することでその時間を約3分の1にまで短縮させることに成功した。さらに、マーケティング起点の案件創出額が2.3倍に増え、Sansan Data Hubがコスト削減だけでなく利益の創出にも一役買っていることが見てとれる。
「アフターコロナの時代を見据え、従来型の営業活動から変わらざるを得ない現状とどう向き合っていくか。データの活用と、それを支えるインフラが重要であることを理解いただき、Sansanはそのインフラの部分をお手伝いしたいと考えています」(久永氏)