良かれと思ったアドバイスが「指示待ち人間」を生む
営業スタッフ時代、私の最初のマネージャーはいわゆる“できる人”だった。私が提案書を作成していると、背後から画面をのぞき込み、次のように細かく指示をしてくる。
「ここはこう書いたほうがいい」
「もっと見やすく配置して」
「このデータも入れるように」
商談前には「相手がこう言ってきたら、こう答えるように」と1つひとつ指示されていた。
はじめこそ「いろいろアドバイスしてくれていいな」と思っていたが、次第にこう考えるようになった。
「どうせマネージャーに直されるんだから、資料は適当につくっておけばいい」
「自分で考えても否定されるだけ。指示を待つのがいちばん楽だ」
こうして、自ら考え、工夫し、壁を乗り越えるという「営業として成長する醍醐味」を奪われた私は、典型的な「指示待ち人間」になってしまった。もちろん自分自身にも原因があったが、当然数字も伸びない。
ほかのメンバーの成績も振るわなかった。結局、マネージャーだけが頑張り、あとは指示を待つ営業スタッフばかりに。その営業所の成績は、最下位だった。

口を出さずに見守ることは、普段の仕事の何倍も苦しい。
研修先でも、同じような光景をよく目にする。あるマネージャーは「若手が同じミスを繰り返す」ことに悩んでいた。しかし、部下たちに話を聞くと、こんな本音が漏れてくる。
「報告しようとすると、最後まで聞かずに『それはダメだ、こうしろ』と言われる」
「結局、マネージャーの言うとおりにしないとなんで、やる気が出ませんね」
そのマネージャーに悪気はない。部下を早く成功させたいという気持ちからの行動だ。しかし、部下たちは「自分で決めたこと」でなければ本気になれないし、「失敗から得た教訓」でなければ身につかない。こういったチームは遠くないうちに崩壊してしまう。
実力があるマネージャーほど正解が見えてしまう。だからこそ、口を出さずに見守ることは、自分でする仕事の何倍も苦しいはずだ。しかし、マネージャーの本当の仕事は「自分が正解を出すこと」ではない。“部下に正解を出させる環境をつくる”ことなのだ。
プロ野球・ソフトバンクホークスの元監督、工藤公康氏がまだ現役のエースだったころ。当時、新人だった城島健司捕手のサインに対し、工藤投手は「打たれる」とわかっていながら首を振らず、そのまま投げる。結果、案の定打たれて失点する
その後、工藤投手は「なぜ打たれたかわかるか?」と問いかけ、実戦の痛みを通じて城島捕手を育て上げた。もしあそこで工藤氏がすべて指示を出していたら、のちの日本を代表する名捕手・城島は誕生していなかっただろう。
私の知人の優秀なマネージャーも、次のように言っている。
「部下が間違えそうなとき、あえて口を出さない“忍耐”を自分に課しています。最初は効率が悪く見えますが、半年後にはチーム全体の判断力が劇的に上がるんです」

