「エビデンス」に基づく提案の自動化と、その先の未来
ターゲットと担当者が決まれば、次は「何を」伝えるか、という提案内容の作成だ。ここでもKIJIの独自性が際立つ。
汎用的なLLM(GPTなど)は、単一のサイト分析は得意だが、情報が複数の求人媒体やニュースサイト、政府機関のデータベースに分散していると、それらを統合して分析することはできない。「GPTでも限界はある。KIJIの強みは、分散したデータを事前に名寄せした(AI分析用の)基盤があることだ」とアラム氏は語る。
この統合データ基盤の上でAIを稼働させることで、各社のIR資料や中期経営計画書を横断的に分析し、企業固有の課題を抽出する。「LLMのコストが下がっているので、1年のすべての報告書を一気に分析することもできる。ニッチな提案も作成できるようになった」とアラム氏は言う。

AIは、企業の公開情報という客観的な「エビデンス」に基づき、各社に最適化された提案の「ネタ」やトークスクリプトを自動生成する。これにより、営業担当者がリサーチや提案準備にかけていたコストは大幅に削減される。
さらにKIJIは、単独のツールとしてだけでなく、既存の営業システムと連携することでその価値を最大化する。SalesforceやHubSpotといった主要なCRM/SFAとのAPI連携に加え、「MCPサーバー」という仕組みも提供している。
「弊社のKIJIのUIを使わなくても、自社の環境から直接データにアクセスできる。たとえば、直接Slackから『こういう提案書、こういうリストを教えてください』と入力すると、データベースからデータを取得して処理してくれる」(アラム氏)
これは、KIJIが単なるツールから、組織のワークフローに組み込まれた「統合インテリデンスレイヤー」へと進化していることを意味する。
KIJIは、JPX総研(日本取引所グループ)やメガバンク信託銀行、野村アセットマネジメントといった金融機関から、SaaS企業、大手総合研究所まで、業界を問わず導入が進んでいるという。
AIとデータ処理技術の進化は、営業の成功法則を根本から書き換えた。これからの営業の成否を分けるのは、「共有されたデータにいかに速くアクセスするか」ではなく、「いかにして自社独自のインテリデンス(営業データ)を構築し、活用するか」という視点に他ならない。今回のセッションは、その具体的な方法論と未来を指し示した。

