「AI活用のベストプラクティス」を広げ、組織全体の成果向上へ
──現在のAI活用における課題はどこにあると感じていますか。
普及という点においては、90%という数字が出ているので、そこまで強い課題は感じていません。むしろ現在の課題は、ここからいかに経済効果をより高く出していくかという点です。
生成AIモデルの進化は非常に速いため、どの業務フローに適用すればもっとも生産性が向上するのかという「ベストプラクティス」を、常に探し続ける必要があります。現在、書類作成の領域でとくに成果が出ていますが、今後はそれ以外の領域でも、いかに確実な成果を出していくかに注力していく考えです。
──AIの活用が進むと、社員間でプロンプトのスキル差から「属人化」が起きるのではないかという懸念もあります。これについてはどのようにお考えでしょうか。

正直なところ、AI活用の属人化はある意味あってしかるべきかもしれません。なぜなら、AI活用はあくまで「手段」だからです。手段を必死に追求した結果、組織全体の生産性が悪くなるのであれば、それは本末転倒です。
私たちが目指すのは、組織の生産性を上げるためのベストプラクティスが徐々に広がり、組織全体のベースアップが図られることです。トップダウンで一律に「このAIの使い方をしろ」と指示してしまうと、現場からのイノベーションは生まれません。市民開発を推進している以上、一時的な属人化は、より良い活用方法を発見するためには必要だと考えています。
生成AI活用は「生身の人間が持つ価値」をより高める
──今後はどのようなことに挑戦していきたいとお考えでしょうか。
大きくふたつあります。ひとつは、現在の対話型LLMから進んで、自律型のAIエージェントを市民開発し、一段高いレベルで生産性を向上させることです。
もうひとつは、業務効率化や生産性向上という領域だけでなく、AIを活用してプラスアルファの価値を生み出すことに挑戦したいと考えています。私たちはこれを「人間機能の拡張」と捉えています。
具体的には、お客様へのサービスをより「パーソナライズ」していくことです。営業担当は常に複数のお客様を抱えています。標準化も一定必要ですが、AIを活用することで、お客様1人ひとりに対するパーソナライズの度合いを究極に高めていく。人が考えるプロセスをAIが支援することで、より高度な個別対応が可能になり、生産性、ひいては顧客体験の向上につながると考えています。
──最後に、「AI×営業の協業」について、どのような未来を描いているかお聞かせください。
私は、生成AI活用の追求は、「生身の人間が持つ価値」をより深く追求することに直結すると考えています。
AIは過去のデータから最適解を導き出すことは得意ですが、「新たな価値を生み出す」ことにおいては人間の優位性があります。そのため、AIが得意なデータ処理はAIに任せ、営業はお客様との関係構築、感情を動かす提案、最終的な合意形成といった部分に注力すべきです。そして、過去にはなかったような発明的な提案や新しいサービスの創造に特化していくべきだと考えています。
こうした「人とAIの協業」を進化させ続けることで、お客様の選択肢を増やし、より豊かな未来を創造できると考えています。

──ボトムアップや市民開発を中心とした御社ならではのAI活用の取り組みは、多くの企業の皆様にとって大きなヒントとなるはずです。本日は貴重なお話をありがとうございました!
