バイヤーイネーブルメント実現のためのコミュニケーション戦略
一方で、アウトバウンドの営業を行うBDRにおいて永遠の課題とも言えるのは、「顧客体験」だ。AIやインテントデータによって、効率化と成果向上を目指しながらも、顧客の体験を損なわないBDR活動をどう実現することができるのだろうか。
リアルタイムAIによる対話サポートが、期待値のズレを防ぐ
上原氏は、顧客にとって良い体験をつくるための鍵として、「お客様が言ってることを理解できないままコミュニケーションをとってしまうと、正確に課題を拾い上げられない」という課題を挙げた。これを解決するのが、AIによるリアルタイムの対話支援だ。
「さきほどの事前準備の話にもつながりますが、たとえば一見難しい業界用語などもAIによって精緻かつスピーディーに情報を集め、学ぶことが可能になってきました。そういった準備をしたうえで商談に臨むと、お客様としても『よくわかってくれているな』と感じてくださり、会話が弾んでいきます」(上原氏)
顧客自身の情報収集も容易になっている時代においては、営業と接点を持つタイミングで顧客の期待値は非常に高い状態であることが多い。このような事前準備を行うことで、マイナスのギャップが発生するのを防ぐことができる。
「アポ」ではなく「関係構築」を目的とする
茂野氏は、「アポ率改善の話もありましたが、たとえばアポ率1%の場合、99%のお客様には断られている状態かもしれません。断られてしまうだけならまだしも、99%の見込み顧客にネガティブな体験を提供している可能性もあります。営業活動が自社のブランド毀損につながるリスクもはらんでいます」と、BDRがネガティブな影響をもたらす可能性を指摘した。
これに対し上原氏は、BDRは次のような意識を持つ必要があると述べた。
「アポをとることが目的になってしまってはいけないんですよね。BDRおいてもっとも大事なことは、お客様との関係構築。3ヵ月、半年、長期的にお客様とコミュニケーションをとるという前提で、会話を始めるというスタンスが求められると思います」(上原氏)
湯浅氏は、「たとえば、料金なのかスペックなのか、顧客がどういったことに関心を持っているかを推測したうえで、必要な情報を事前に用意することが重要」と語る。それが、顧客の信頼を高めるコミュニケーションにつながるからだ。
「欲しいタイミング、欲しい情報が得られるというのが買い手にとってもっとも心地良い体験」であるという、「バイヤーイネーブルメント」の原則を体現することがこれからのBDRには求められていく。
データと失敗経験が導くBDRの未来
セッションの最後には、BDR戦略の変革に取り組む聴講者へエールが送られた。
「共有したインテントデータのお話や取り組みだけが正解かというと、必ずしもそうではないかもしれません。BDRの領域でいろいろな情報を収集し、トライ&エラーしてもらうことが重要だと思います。成果の裏側にはやはりたくさんの失敗がありますから」(湯浅氏)
「まさに、各社で社内事情も違えば、外部環境やデータの質、量も違いますからね。自社にあったやり方を見つけるためには、社内でも挑戦や失敗を許容できるような仕組みを用意することも大切だと思います」(上原氏)
茂野氏は「AIでどれだけ調べても、失敗事例はなかなか出てこないんですよね。ぜひ、直接話を聞ける環境の中で、失敗事例を集めてみてほしいです」と、リアルな情報や経験の価値を改めて強調し、セッションを締めくくった。
