インキュベーターは、DX化が進む中、法人営業の成約率向上がさまざまな企業にとって喫緊の課題となっている一方で、営業プロセスの「準備段階」に関する実態が十分に解明されていないことを受け、今回、法人営業における商談準備と成約率に関する実態調査を実施した。
本調査は、法人営業担当者453名と法人での製品・サービス発注担当者436名を対象に行われ、商談における「事前の準備」が成約率や顧客満足度に与える影響を多角的に明らかにすることを目的としている。
【調査1】営業担当者の実態:プロセスの課題と組織構造の問題(n=453)
営業担当者の半数以上が「準備不足」を実感 最大の壁は「時間」

商談準備が十分にできているか質問したところ、過半数(55.1%)が何らかの準備不足を感じていることがわかった。その最大の理由として、約半数(49.2%)が「準備に充てる物理的な時間がない」を挙げており、構造的な時間不足が質の高い準備を阻害していることがわかった。
準備プロセスにおける「三重苦」:情報収集・課題推測・シナリオ構築

準備プロセスでとくに困難を感じる点を質問すると、「顧客の具体的な課題を推測すること(48.6%)」「顧客に響く提案の切り口(シナリオ)を考えること(45.3%)」という、深い思考を要する工程が上位を占めた。情報収集だけでなく、そこから価値ある提案を創出するプロセスに負荷がかかっていることがわかった。
過半数が実感する「準備の属人化」 組織的課題が浮き彫りに

所属する営業組織において、商談準備の方法や質が個人のスキルや経験に依存している(属人化している)と感じるか質問したところ、「非常にそう思う」「ある程度そう思う」を合わせて61.1%が回答した。これは、過半数の営業組織で、準備の質が個々の能力に委ねられており、組織として標準化・効率化が図れていないという実態を示している。
情報収集の現状:ウェブ検索が主流だが、深い情報へのアクセスに課題

商談準備の情報収集手段としては「Google検索(85.0%)」「企業の公式サイト(81.7%)」が多く、手軽な方法に依存している傾向が見られる。一方で、より深い分析につながる「企業のIR情報(38.4%)」や「社内データベース(35.1%)」の活用率は相対的に低い結果となった。
情報収集への不満:情報の「質」と「量」に営業が疲弊

現在の情報収集方法への不満点では、「情報量が多すぎて、必要なものを見つけるのに時間がかかる(58.7%)」がトップだった。次いで、「情報が断片的で、全体像がつかみにくい(45.0%)」「情報収集そのものが煩雑で手間がかかる(41.3%)」が続き、さまざまな情報の中で本質的な情報を見つけ出すことに営業が苦労していることがわかった。
商材単価と準備時間の相関:単価と準備時間は単純比例しない

取り扱い商材の単価別に商談準備時間を見ても、単価が上がるほど準備時間も増えるという単純な相関は見られない。「1,000万円以上」の高額商材を扱う層も、27.8%が準備時間「30分未満」と回答しており、時間不足が単価に関わらず営業組織全体の課題であることを示唆している。
準備時間と成約率の連動性

商談準備時間と「準備の有無による成約率の差」の実感を詳細にクロス集計したところ、準備時間が長くなるほど、成約率への好影響を実感する傾向が見られた。とくに準備に「2時間以上」をかける層では61.3%が「2倍以上の差がある」と回答しており、これは準備時間「15分未満」の層の4.3倍以上の数値になる。
準備不足が引き起こす失敗の構造

準備時間が短いほど、さまざまな失敗を経験する割合が高くなることがわかった。とくに準備時間「30分未満」の層は、65.4%が「的外れな提案」、61.2%が「失注」、58.8%が「信頼毀損」という失敗を経験している。準備不足が多岐にわたる機会損失に直結していることが明らかになった。
【調査2】発注担当者の本音:評価される営業の絶対条件(n=436)
発注担当者が選ぶ「買いたい営業」と「買いたくない営業」の決定的な差


「買いたい」営業の特徴は、「自社や業界への理解が深かった(68.3%)」がトップだった。一方で「買いたくない」営業は「自社のことを全く調べていないと感じた(61.4%)」がトップとなり、事前準備に基づく顧客理解が評価を二分していることが明らかになった。
約8割が経験する「残念な初回商談」の実態

初回の商談で、営業担当者から的はずれだと感じる提案や、自社の状況を理解していないと感じる説明を受けた経験があるか質問したところ、「頻繁にある」「時々ある」を合わせて78.2%に達した。さまざまな発注担当者が、準備不足の営業による「残念な商談」を日常的に経験している実態が明らかになった。
提案力の本質は「深い顧客理解」からくる安心感 66.5%が重要視

製品の機能・価格が同程度の場合、最終的な決め手として営業担当者の「提案力」がどの程度重要か質問したところ、「非常に重要」「重要」を合わせて66.5%となり、提案力が重視されていることがわかった。
「素晴らしい提案」を構成する要素の相関

「この営業はよく調べている」と感じさせる情報(縦軸)と、発注者が「素晴らしい」と感じる提案の要素(横軸)の相関から、特定の情報収集が特定の価値提供につながりやすいことが示唆される。たとえば、「IR情報」や「中期経営計画」を読み込んでいる営業は、「将来ビジョンに寄り添う」という付加価値を提供できる可能性が高い。