テンプレート実例の紹介(アポ獲得スクリプト)
ここで、アポ獲得のためのスクリプトテンプレートの実例をご紹介します。
あるSIerにおいて、既存顧客(情報システム部門)のうち、中堅規模の製造業30社をターゲットに、新たな案件を創出するというプロジェクトが立ち上がりました。
営業マネージャーはチーム内のアポ獲得率を底上げするため、アポスクリプトの文章のテンプレートを作成することにしました。
元のスクリプトは次のような文章でした。
お客様社内では、以下のような課題はありませんか?
- ネットワークの遅延
- ゼロトラストセキュリティ対策の検討
- 現行システムの各種データ統合
- オンプレからクラウドへの移行
- ユーザー部門からの問い合わせ対応の負荷拡大
- 全社での働き方改革
もしひとつでもあてはまるようでしたら、貴社の課題に合わせた弊社ソリューションの紹介が可能です。以下の日程でご都合はいかがでしょうか。
ここまでお読みいただいた読者のみなさんならお分かりだと思いますが、このテンプレートは完全に「仮説レベル2:日本の大手企業に当てはまる課題」になっています。日本に大企業は数千社以上あるため、このようなメールや電話を受けとっても、お客様の心は動かされません。
実際、このテンプレートを使って既存顧客リストに一斉送信した際、まったくアポは取れなかったそうです。
「多数の企業にあてはまる課題を多数列挙しておけば、どれかひとつはひっかかるだろう」というスタンスは、顧客からすると焦点がぼやけてしまい、「自社には関係がない」と思われてしまいます。だからこそ、顧客業界や役割に合わせた“解像度の高い課題仮説”を提示することが重要なのです。
そこで、課題仮説を製造業の関心がもっとも高そうな「ゼロトラストセキュリティ対策」に絞り、次のようなテンプレートへの修正と、メンバーへの指示をしてもらうようにしました。
※過去の打ち合わせや顧客の直近のプレスリリース等を参考に、冒頭に以下のようなカスタマイズ文を毎回個社別に作成して挿入してください。その後、共通テンプレート文をいれてください。
カスタマイズ文:
貴社にて〇/〇に配信されたプレスリリースより、「△△事業の展開」が進んでいると拝見し、貴社のIT活用範囲が以前よりも更に広がってきているものと推測しております。新たな拠点や取引先との連携に伴い、情報システム部門様において、システム運用やセキュリティ面でも新しい課題や取り組みへの検討の機会が増えているのではないかと存じます。
共通テンプレート文:
実はこの1年、貴社のように自社でのIT活用範囲が広がっている製造業の情報システム部門様より、「リモートワークやクラウド利用が増える中で、境界型の防御だけでは不安」といった声を多数頂くようになりました。
特に昨今は、製造業を狙ったサプライチェーン経由の侵入やアカウント乗っ取りによる情報漏洩が増加しており、「ゼロトラスト型セキュリティ」への関心が急速に高まっています。
そこで、製造業における他社の最新の取り組み状況について、お役に立てる情報を一度□□様にご紹介できればと考えております。以下の日程でご都合はいかがでしょうか。
このように、複数の課題の列挙ではなく、ターゲット顧客の業界と部門の課題をひとつに絞って具体的な仮説を記載し、冒頭に個社別のトピックを挿入したところ、アポ獲得率は大きく底上げされました。
まとめ:まずは「業界別の仮説テンプレート」から
仮説提案営業をチーム全体で実践するためには、個々のスキルに依存せず、組織的に標準化することが欠かせません。その第一歩は「業界別の仮説テンプレート」を整備し、営業活動のプロセスに組み込むことです。マネージャーが最初の仮説を立て、メンバーが検証・改善を重ねていくことで、チームの総合力は確実に向上していきます。ぜひ皆さんの会社でも取り入れてみてください。
次回は、「アポ獲得後の仮説提案資料の標準化」について解説します。