健全な野心を持つ仲間たちと、“AI活用の波”を乗りこなす
田口 おふたりともありがとうございました。私からも質問させてください。自社でAIを開発する際、または開発ベンダーを選定する際に意識するべきポイントはあるでしょうか。小松さん、自社でセールスイネーブルメントAIを開発する中で、見えてきたものはありますか?

小松 非常に難しいですね、我々も試行錯誤しています。たとえば完全にAIへ置き換えられる業務なら、AIの利用率が上がれば上がるほど良い。しかし、我々は営業の生産性向上を目的としています。そのために開発したセールスイネーブルメントAIは、誰もが生産性が高く、価値ある提案をお客様へ届けるための入口として機能すれば良い。ある意味、使われないようになることがゴールかもしれません。利用率とはまた違った軸でとらえる必要があります。
冒頭で戸松さんがおっしゃった「やるんだったらどっぷり」というのは、とにかくAIを触ってみて、何ができるのか確認しながら次のアクションを見つけていく、その中で目指すべきAI活用の在り方がどんどん変化していく状態を指すのではないかと思います。いずれにせよ、何が目的か明確にしたうえで、まず試してみることが重要なのではないでしょうか。

戸松 おっしゃるとおりですね。AI活用というのは、新たな技術が生まれた瞬間、構想してきたものがあっという間に陳腐化する可能性をはらんでいます。山登り感覚でつくりあげていくというよりは、波乗り感覚。次の波が来たとき、それをどう乗りこなし、目的達成に向けて進んでいけるかが大切になります。
田口 そうしたスピード感をもって取り組むための施策として、NTTコミュニケーションズではPoCというプロセスを取り入れているのではないでしょうか。さまざまな企業の話を聞くと、PoCに失敗したまま取り組みがストップするケースが多いように感じます。AIやシステムのPoCを成功させ、本格導入へ進めるうえで、外せないポイントはありますか。
戸松 「PoCで成果を出したい」という人やチームとタッグを組むことです。やはり「我々は実験台ですから」「まずはお手並み拝見」というスタンスの人々とは、成果を出しづらいですね。
あとはスコープ、取り組みの“範囲”をどのように設定するか。将来的には何千人規模での運用を目指すとしても、最初は50人~100人規模で始めます。そのステップの切り方として、まずは成果を出せそうな人、たとえば2:6:2の法則の上位の“2”と取り組み、一緒に成果を出すことが重要です。
また、そうした人々は、成果が見込めないと判断したら率直に「これでは成果が出ません」とフィードバックしてくれます。これも、PoCを成功させるためのポイントだと言えます。
田口 タッグを組むべき人やチームは、どうやって見極めるのでしょうか?
戸松 マーケティングサイドとして営業とやり取りするなかで、今の現状を良しとしない人は何かしら問い合わせをしてきます。その際の内容や伝え方で「一緒に取り組もう」と考えている人は、自然とわかる気がしますね。
田口 なるほど、問い合わせはひとつの指標かも知れないですね。
戸松 とくに本部長クラスなど、組織を動かすパワーを持つ層がどんどん意見を述べてくれるととても良いですね。いずれにせよ、成果を出したい、評価を高めたいという健全な野心がある人がPoCに向いているのではないでしょうか。

今後ますますAIが進化していく中、営業が発揮する価値と抱くべき危機感について語った後編は7月4日(金)公開予定!