「声が大きい人に従う」SFA活用前の属人的な営業組織
高橋(TORiX) この連載では、手探りの中で営業組織の強化に取り組んだ企業さまの赤裸々な事例をうかがうことで、読者のみなさまにもチャレンジのイメージを持ってもらえればと思っています。まずは皆さんのお役割を教えてください。

大場(ニコンソリューションズ、以下ニコン) バイオサイエンス営業本部の本部長を担当して6年めになります。6年前の組織にはセールスイネーブルメントという言葉もなく、一部のトップセールスに周囲がついていくかたちで、営業担当全員が成果を創出できているとは言いにくい状態でした。
髙橋(ニコン) 営業企画部の責任者で、6年前は東日本営業部の責任者をしておりました。ルールのない中で、営業をどうまとめていくかを意識して活動していました。
岡(ニコン) カスタマー戦略部の部長を務めております。製品やマーケティングを担当していたのですが、3年前にインサイドセールスとマーケティングの機能を持った組織の課長を務めることになり、初めて営業にかかわることになりました。
田上(ニコン) 営業企画部営業企画課の課長を務めています。Salesforce(SFA)の管理者をはじめ、幅広い業務を担当しています。導入から6年ほどになりますが、「これがないと仕事ができない」というシステムになってきた手ごたえがあります。
高橋(TORiX) ニコンソリューションズの営業組織にあった課題についてうかがえますか。

東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで4万人以上の営業強化支援に携わる。コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年『無敗営業』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)を出版 、シリーズ累計10万部突破。2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)、2022年『質問しだいで仕事がうまくいくって本当ですか? 』(KADOKAWA)、2023年『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』(ダイヤモンド社)を出版。2万人調査の分析に基づき、2024年4月に発売された新刊『営業の科学』(かんき出版)は、6万部を超える反響を得ている。2024年4月から東京学芸大学の客員准教授も務め、「”教育”と”営業”の交差点」を探究している。また、東京都内で「人生のヒントが見つかる」をコンセプトにしたリアル書店も経営。
大場(ニコン) 6年前は、お客様からの引き合いをはじめとした情報が、各営業担当の頭の中やパソコンにのみ入っている状態でした。営業活動が個々の担当に依存していて、全体での情報共有や議論する場が少なく、どちらかというと声が大きい人の意見が通りやすい環境だったかなと思います。マネジメント層においてもも、個人の経験に頼る・偏る状況もあり、改善の余地があると感じていました。
髙橋(ニコン) 明確なデータ共有や育成の仕組みがなかったのは、複数の会社を合併したという背景、そして中途採用者がほとんどという背景も関係していますね。良い意味では、個人の能力を非常に重視していて、自由に営業活動をできる部分があった。メーカー販社として、製品知識を覚えなければならない点だけは全員に共通していますが、営業ノウハウやプロセスについては個人の経験値に任されていました。
高橋(TORiX) 伝統的な企業で、信頼のある製品を力のある営業個々人が販売していたようなかたちですね。それでもさらに営業を強くする軸としてSFAを導入されたとうかがっています。構築に携われてきた田上さんは、もともとご経験があったのですか。
田上(ニコン) 大場さんの主導で西日本・東日本の営業部全体でデータを一元化する企画をスタートし、その手段としてSFAの導入が決まりました。私は未経験で、自ら情報を集めて学びましたね。
高橋(TORiX) たいへんな状況ですよね。狼煙を上げるというか、軸にしていた方針やコンセプト、合言葉はありますか。
大場(ニコン) ニコンのイメージカラーである黄色で市場を埋め尽くすイメージで、「黄色帝国になろう」という標語を掲げ、シェアナンバーワンを目指そうと伝えていました。