営業現場でのAI活用のヒント「Go-Teian」を作成
──ここからAI活用についてもどんどんうかがえればと思います。まずは、AI活用の全体像や利用状況について、教えてください。
淺間 社内向けの生成AIサービスを、2023年5月にリリースしました。現在アクティブに使っているユーザーは全社で3万3,000人ほどになります。
また、われわれ社内IT部門からアプリだけでなく、APIも提供しており、こちらの利用が約半数を占めます。エンジニア気質の社員が多いのか、APIを自分の業務に組み込んで自動化するなど、社員自身による市民開発でもさまざまな活用が進んでいます。
その結果、データ分析によって生成AI活用により1年間で92万時間ほど残業時間が削減できていることがわかりました(「Fujitsu Kozuchi 因果分析」を使用)。オフィスでも生成AIについての話がよく飛び交っていて、組織として当たり前に使われている雰囲気できつつありますね。
──営業現場で活用されているAIツールには、どういったものがありますか。
中山 たとえば、富士通独自のインタビュー手法をサポートしてくれるツールがあります。インタビューのラフな書き起こしを入れるだけで、内容を構造化した議事録のかたちにしてくれます。
リードセールスのアプローチにおいては、初めて会うお客様をよく知るためにこのインタビュー手法を実施することがあります。このインタビューは優れた手法なのですが、インタビュー内容の資料化が複雑で素人がすぐにまねできるものではありませんでした。しかし、このツールを使うと、インタビューが未熟でも補って構造化してくれるのです。
淺間 熟練スキルを誰でも使えるようにするためのAI活用は、早い段階から取り組んできましたね。
たとえば、社内に散らばったナレッジを横断的に検索できるチャットボットや、富士通の数ある製品・サービスを検索し、お客様の課題にあったものを提案してくれるツールなど、サービスを熟知していないと難しい提案も、AIに頼ることで、若手メンバーでもできるようになるのです。
中山 ほかにも、企業名を入れると必要な分析を一発で出してくれるツールや、今ホットなトレンドをベースにビジネスアイデアの仮説をつくってくれるツールもあります。
──こういったツールを営業現場で活用推進するために、どういった工夫をされていますか。
中山 先ほど説明した、商談発掘からワークショップまでの3つのプロセスを中心にBPが活用できるAIツールやプロンプトが詰め込まれたアプリ「Go-Teian」を何人かの有志で市民開発しました。
淺間 生成AIにかなり乗り気な社員が多く、営業現場を効率化しようと自分たちで生成AIを使って開発したり、われわれIT部門に相談したりと、AIツールが一気に増えました。便利になってきているものの、今からAI活用をスタートする人からすると、ツールがありすぎて何を使えば良いかわかりません。
そこで、今はツールやユースケースを生成AIエージェントを介して集約する取り組みも走っています。
裏でさまざまなツールが動いて、社内の“暗黙知”まで含めたナレッジを検索したり、提案をしてもらえたりする機能を実験的に挑戦しています。
たとえば、BPの若手メンバーが初めて訪問する際に、通常ならBP部門の本部長が「俺だったらこうやって提案する」と助言するところ、AIエージェントがさまざまなノウハウやツールを駆使して、代わりにアドバイスしてくれるイメージです。
──AIツールを使いこなすために、営業メンバー向けにプロンプトの研修なども行っていますか。
淺間 それはあまりやらなくなったな、と思います。生成AIは、自然言語で聞けるのがすばらしい点です。企業全体でフル活用することを考えると、プロンプトのノウハウやスキルを鍛えていくというよりは、「どんな聞き方をしても返ってくる」ツールを提供したい。なので、プロンプトエンジニアリングの講座はここ1年くらいやっていないような気がします。
社内講座では、むしろ「AIってこういうものだよ」「なんて聞いても良いんだよ」と、なるべくハードルを下げるようなハンズオンを実施しています。
淺間 AIを使うためにAIを使いにいくのではないと思っているんです。普通に仕事をしていたら必然的にそこにAIがいて、恩恵を受けているという状況をつくりだす。それが利用率を伸ばすうえでも、実際に効果を出すうえでも重要だと考えているので、今はそのためのさまざまな手法を試しているところです。