営業における注目のAI活用
──今井さん、『The Intelligent Sales』の上梓おめでとうございます! 書籍のテーマでもある「AI」を営業の業務にも活用しようという機運が高まっていますが、おふたりが注目している活用の事例はありますか。
今井(セレブリックス) ロールプレイングのお客様役をAIにやってもらう事例があります。やりとりだけでなく、お客様の心理状況がリアルタイムでスコアリングされて表示される──つまり営業に対する信頼や納得感などが数値で見えます。営業が切り返す内容次第でスコアが上がったり下がったりするんですね。ただ、実在する人間の場合、納得するかどうかはその日の気分にもよりますよね。その揺らぎもAIに反映されていて面白いんです。
ロープレってどうしても嫌がる人が多いですが、このAIロープレによってゲーム感覚で楽しく取り組める人が増えたそうです。これは新しい使い方ですよね。
澤(圓窓) 最近、英会話の先生としてAIが良いとよく言われていますが、理由は生徒が「恥ずかしくないから」。ロープレも、先輩社員相手に緊張したり、上司に不出来な姿を見せることになったりするから嫌なんですよね。その心理的負担がAIによって解消されると思います。
あと、謝罪のメールを全部AIに書いてもらってるという事例を聞いて、「AI活用の真髄だな」と思いました。謝罪文を書くときは出来事を思い出す必要があって、それでまた嫌な気分になりますよね(笑)。AIは嫌な気分にならないので、代わりにやってもらう。精神衛生上めっちゃ良いですよ。
今井 社内のコミュニケーションでは、日々一緒に仕事をしていると「それぐらいわかるでしょ」みたいな一文を加えたくなりますが、AIに考えさせれば自分の余計な気持ちを入れないで済みますよね。
生成AI時代に営業組織・リーダーはどう変わるべきか?
──この生成AI時代、営業の現場はどのように変化していると見ていますか?
澤 「人間の本質は変わっていないから、セールスのありようも変わらないはずだ」という意見がありますが、やはり大きく変わっているんですよ。2013年から2023年までで、人が持っているデータ量は60倍にも増えたというレポートもあります。
ちょっとSNSを調べたら余計な情報までたくさん出てくる。初めての営業先でも、「相手も自分も何も知らない」状態からスタートすることはほとんどないわけです。お客様も、「これから来る営業はどんな人か」と事前に調べているかも知れません。
今井 私も商談の際には、AIを使って調べますね。たとえば澤さんが顧客なら、事前にChatGPTに「澤さんが大事にしていることやメディアで話していることを挙げてください」と尋ねます。すると、どのメディアで何を喋っていたかURLまで出力してくれる。情報へのアクセスもしやすくなっている時代だと思います。
──そういった変化が前提にあったうえで、営業組織のリーダーにはどんな変化が求められていますか。
今井 まずリーダーが勉強しなければいけないと思います。時代が変わり、購買者の環境、営業の環境が変わった。今求められる営業のあり方やコミュニケーションをリーダー自身が勉強しないと、状況に応じた正しいマネジメントはできないですよね。「新しいことは若い人にやらせよう」ではダメなんです。
実は、当社でも生成AIが話題になり始めたころ、生成AIを活用したビジネスに取り組むべく、誰かが研究しようという話が出ました。そこで僕が手を挙げたところ、「今井がやらなくても良い、若いメンバーにやらせたい」という声が出ました。しかし、これからのビジネスを大きく変える最先端のAIについて語れない人間が経営やマネジメントをすることに何の意味があるのか、と思ったんです。
澤 僕は、AIを活用する前に、まずは「どれだけ過去の話をするのに時間を使っているか」を棚卸しするのが効果的だと考えます。たとえば、営業報告のミーティングは無駄の極致。進捗は、ひとめ見ればわかる仕組みにしておけば良いはずです。そのうえでAIに分析をさせて「この案件は確度何%」といったデータを見ると良いでしょう。
会議の場では「未来の話」をするのが重要です。未来をどうやって面白くするか。綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、この先の行動をどうするかは自分(人間)にしか決められないんです。 いきなりAIを使おうとするのではなくて、過去の話をしている「無駄」を棚卸しする。そのうえでAIに任せる部分を決めるというプロセスが必要です。
それから、今井さんの書籍に書いてある「AI活用における美意識」──この考え方はとても大事だと思いますね 。将棋のように「こうなったら勝ち」というルールがあるものは、打ち手の良し悪しが計算できますが、営業の場合はそう明確ではありません。美意識やクリエイティビティが大事になるわけです。
──美意識にまつわる話で言えば、データとAIでできることをそのまま顧客に話すだけでは、ネガティブな気持ちにさせてしまうこともありますよね。
今井 そうですね。自分たちがAIを使うのは勝手ですが、お客様の組織はそもそもAIを使って良いルールなのか。その状況も把握しないまま「御社の情報をAIに読み込ませまして」と何気なく発言したとしたらそれは事故ですよね。