インサイドセールスとは
インサイドセールスとは、「inside=内側」「sales=営業」という意味から、「内勤営業」と言われる営業手法です。顧客のもとに訪問して営業活動を進める「フィールドセールス」とは違い、電話やメール、チャットやオンライン商談ツールなどを活用し、非対面で営業活動を進める点が大きな特徴です。
そのため、社内でのインサイドセールスの役割や立ち位置も、フィールドセールスとは異なっています。
インサイドセールスの役割とKPI
インサイドセールスの大きな役割は、マーケティングとフィールドセールスの橋渡しです。マーケティングが獲得したリード(見込み顧客)にアプローチして信頼関係を構築し、確度が高まった時点でアポイントを獲得して商談を創出し、フィールドセールスへとトスアップすることで受注率を高めます。
今までは、一人の営業担当者がリードへのアプローチからアポイント獲得、商談実施、契約締結まで担っていました。しかし、既存顧客のフォローもある中でこうした業務を並行することはリソース的に厳しく、確度が十分ではない段階で商談を実施してしまい失注することも珍しくありませんでした。
そこで、リードへのアプローチと商談創出を担当するインサイドセールスと、商談と契約締結を担当するフィールドセールスで営業プロセスを分業することで、営業活動を効率化して売上を向上させるという動きが活性化してきたのです。
このように、インサイドセールスは主に「リードナーチャリング(見込み顧客の育成)」と「リードクオリフィケーション(見込み顧客の見極め・選別)」、そして「商談創出」という役割を担っているため、今までの営業とは異なる視点でKPIを設定する必要があります。インサイドセールスでよく活用されているKPIには、以下のような指標があります。
- 架電数
- メール配信数
- メール開封数・率
- 商談創出(アポイント獲得)数・率
もちろん最終的な目標は「受注率を高める」ということなので、受注件数や受注率などもKPIとして設定されますが、インサイドセールスの役割上、「どのくらいリードと関係性を構築できたか」「契約締結にどれだけ貢献したか」といった点が重視される傾向にあります。したがって、上記のようなKPIが設定されることが多いでしょう。
ただし、商談や契約締結まで非対面で行う企業もあり、企業によってインサイドセールスの活用方法は多岐にわたります。
テレアポとの違い
インサイドセールスは電話でアポイントを獲得することも少なくないため、しばしば「テレアポ(テレフォンアポイントメント)」と混同されます。
テレアポは「アポイント獲得」が目標のため、営業リストに対して一斉に電話をかけてアポイントを獲得することが仕事です。リードとの関係性構築はあまり重視しない傾向にあり、アポイントの質よりも量が重要となります。
一方のインサイドセールスは、リードと信頼関係を構築して確度の高い商談を創出する役割のため、アポイントの質が重視されます。そのため、テレアポのように営業トークを行う一方的なアプローチではなく、リードに対して課題をヒアリングしたり、一人ひとりに最適な情報を発信したりして、双方向のコミュニケーションを行います。
また、テレアポは短期的な取り組みであることに対し、インサイドセールスはリードの確度によっては継続してアプローチして確度を高めていくため長期的な取り組みになることもあります。
インサイドセールスの種類
インサイドセールスは「SDR」と「BDR」の2種類に大きく分けられます。それぞれの違いについて解説します。
SDR(Sales Development Representative)
SDRとは「Sales Development Representative」の略称で「反響型」と言われる、インバウンド型のインサイドセールスです。リードからの資料請求や問い合わせなどを起点にして営業活動を開始します。
Webサイトやメルマガなどのマーケティング施策をきっかけにしてリードを獲得するため、日本の一般的なインサイドセールス体制と言えるでしょう。そのため、本記事ではSDRのインサイドセールスをメインで取り上げます。
BDR(Business Development Representative)
BDRは「Business Development Representative」の略称で「新規開拓型」と言われる、アウトバウンド型のインサイドセールスです。顧客にしたいターゲットを選定して、戦略的に関係性を構築していきます。
リードを獲得するのは、アタックリストに対して電話やメールをする方法や、展示会に参加したりセミナーを開催したりする方法などがあります。その後、継続的にコミュニケーションをとって信頼関係を築いたタイミングでアポイントを獲得し、フィールドセールスへと引き継ぎます。
リードからのアクションをきっかけに営業活動を始める受動的なSDRとは異なり、BDRは能動的なインサイドセールスと言えます。
インサイドセールスの主な業務フロー
インサイドセールスの業務フローは、主に6つの工程に分けられます。
- マーケティングからリードを引き継ぐ
- リードにヒアリングする
- リードナーチャリングを行う
- リードのスコアリングとクオリフィケーションを行う
- 商談を創出する
- フィールドセールスにリードを引き継ぐ
それぞれに関して、具体的にどのようなことを行うのか紹介します。
1.マーケティングからリードを引き継ぐ
まずは、マーケティングが獲得したリードを引き継ぎます。リードの氏名や連絡先だけでなく、獲得したチャネルやリードの現状などの細やかな情報も共有してもらいます。
たとえば、セミナーで獲得したリードの場合、セミナーのテーマによってリードの課題やニーズを分析できます。また、Webサイトからの問い合わせによって獲得したリードの場合は、フォームに問い合わせした理由や企業の経営課題に思っていることなどを入力する項目を設けていれば、リードの現状を把握できるでしょう。そのため、マーケティングが入手している細やかな情報も共有してもらうことで、そのリードが求めている情報発信やニーズに沿った提案ができます。
2.リードにヒアリングする
リードを引き継いだら、電話やメールなどでリードにファーストコンタクトをとります。このとき、いきなり自社の商品・サービスを勧めてしまうと、一方的な押し売りだと勘違いされかねません。今後、信頼関係を構築していくためにも、ヒアリングを行ってリードについて理解することから始めましょう。
ヒアリングを行うことにより、リードの課題やニーズを把握できるだけでなく、どのくらいの購買意欲なのか判断することも可能です。購買意欲によってその時点での受注確度が変わるため、最初から購買意欲が高ければすぐにフィールドセールスに引き継ぐこともできるでしょう。しかし、大半のリードは情報収集段階や検討段階であることが多いため、まずはしっかりとヒアリングをして現状を把握することが重要です。
ヒアリングの際には、リードの課題や現状のほかにBANT情報も聞き出せると良いでしょう。BANT情報とは、以下の内容を指します。
- Budget:予算
- Authority:決裁者、決裁フロー
- Needs:ニーズ
- Timeframe:導入時期
BANT情報を把握できれば、どのようなスケジュールでどのようにアプローチをしていくのか、戦略を考えやすくなります。また、BANT情報はフィールドセールスの商談でも役立つため、営業プロセスの初期の段階で入手できていれば営業活動をスムーズに進められるでしょう。
3.リードナーチャリングを行う
リードに関する十分な情報を入手した次のフローは、リードナーチャリングです。
リードナーチャリングとは「リードの育成」を意味し、リードの課題やニーズに合った情報を提供してコミュニケーションをとり、信頼関係を築いて購買意欲を高めていくことです。リードナーチャリングをしないと、購買意欲が低く受注確度がほとんどないリードにもフィールドセールスが訪問することになるため、受注率が著しく低くなり非効率です。一方、適切にリードナーチャリングができていれば、フィールドセールスは確度の高い商談に集中でき、受注率を向上させていくことができるでしょう。
リードナーチャリングの際に重要なのが、リードの課題や購買意欲に合わせた情報提供です。たとえば、自社サービスについてよく理解していない情報収集段階のリードは「もっとこのサービスについて知りたい」と思っています。したがって、サービスの詳細な機能や、導入によって解決できる課題などを紹介すると、リードの関心度を高めることが可能です。一方、他社サービスと比較して検討している段階のリードに対しては、他社サービスとの比較資料や導入事例集などを送付したり、初回キャンペーンなどの情報を提供したりすることで、自社サービスへ関心を向けられるでしょう。
4.リードのスコアリングとクオリフィケーションを行う
リードナーチャリングを通じて購買意欲を高めていく段階で、それぞれのリードの確度を可視化できる「スコアリング」を行います。スコアリングとは、たとえば「資料請求は5点」「メルマガのURLクリックは3点」などと点数を設定し、リードの行動に基づいて加算していきます。点数が高いほど購買意欲が高いと判断できるため、各リードの確度を測るために有効な方法です。
次に、スコアリングの結果に基づき「リードクオリフィケーション」を行います。リードクオリフィケーションとは、確度の高いリードを見極めて選別することを指し、主にスコアリングの点数が高いリードを抽出します。ただし、スコアリングの点数だけでは確度が高いと断定することが難しい場合もあるため、それまでのリードとのやり取りの履歴などを分析して、多角的に見極めることが重要です。
スコアリングとリードクオリフィケーションを行うことは受注率を高めるだけでなく、フィールドセールスの業務効率化にもつながります。リードの数が膨大になるほど、フィールドセールスがすべてのリードを訪問することは時間的に難しくなります。時間的な制約がある中で、すぐに断られたり連絡が途絶えたりしてしまうような、確度の低いリードばかりを訪問しては成果が上がりません。そのためインサイドセールスが確度の高いリードを選別することで、フィールドセールスは限られた時間を確度の高い商談に集中できるのです。
5.商談を創出する
リードクオリフィケーションによって確度の高いリードを選別できたら、電話やメールなどでアポイントを打診します。フィールドセールス担当者のスケジュールを確認しながら、訪問する日時を調整します。
アポイントを獲得できたタイミングで、商談当日についてのヒアリングもしておくと良いでしょう。たとえば、どのような話を聞きたいか、見積書も提出したほうが良いか、などを聞いておくと、フィールドセールスの事前準備に役立ちます。
6.フィールドセールスにリードを引き継ぐ
最後は、インサイドセールスからフィールドセールスへとリードを引き継ぎます。その際、それまでのやり取りで得ている情報はすべて引き継ぎましょう。フィールドセールスがリードの課題やニーズを把握したうえで提案内容を考案できるため、よりリードの心に響く提案を行えます。
情報共有の際には、SFAやCRMなどのツールを活用すると効率的です。ツールに入力されている情報を確認するだけで顧客情報や今までのやり取りを把握できるため、外出が多く忙しいフィールドセールス担当者でも容易に情報共有ができます。
他部門と連携し合う営業プロセスを構築する
インサイドセールスは、リードナーチャリングとリードクオリフィケーションをメインの役割とするため、マーケティングやフィールドセールスなど他部門との関わり合いが欠かせません。他部門と連携し合って分業する営業プロセスを構築することで、より強固な営業組織になるでしょう。
そこで、ここからはインサイドセールスと他部門で営業プロセスを分業するメリットや、他部門との関係性などを解説します。
「The Model」に見る営業の分業化とは
営業プロセスの分業を理解するうえで知っておきたいのが、Salesforce社が提唱する「The Model(ザ・モデル)」です。
The Modelとは、営業活動における一連のプロセスを、役割や目的に応じて「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4部門に区分して分業することです。分業と言っても、それぞれが独立して機能するのではなく、連携し合いながら分業して成果を高めていくことを目的としています。
営業プロセスを分業するメリット
The Modelのように営業プロセスを分業することで、以下のようなメリットが期待できます。
自身の業務に集中できる
営業プロセスを分業化すると、自身の業務範囲が明確なため、専門性に特化した業務に集中できるという点がメリットとして挙げられます。
今までのように、一人でリード獲得、商談創出、商談実施、契約締結、フォローまで一貫して担当していると、それぞれの業務が中途半端になり知識が浅いまま業務を進めることになりかねません。担当者がスキルアップできない、次々に業務が入るため集中できない、などのリスクも生じます。
しかし分業化によって、自分の業務のみに集中できるため専門性を磨くことができ、スキルアップしやすくなるでしょう。
人手不足対策になる
分業化は人手不足対策になる点もメリットです。
分業化によって自身の業務に集中できれば各部門の専門性が高まり、より精度の高い施策を講じることが可能です。各部門の施策の効果が向上すれば、営業プロセス全体での成果も出て、営業効率が向上していきます。
限られた人的リソースでも成果を上げる仕組みを構築できるため、人手不足対策となるでしょう。
受注率や売上を最大化できる
営業プロセスの分業化は、受注率や売上にも大きな影響を与えます。
たとえば、インサイドセールスが確度の高い商談を創出できるようになれば、受注率が向上します。また、各部門が連携し合って適切なフォローができれば顧客満足度が向上するため、リピート購入やアップセル・クロスセルを誘発できるため売上向上につながります。
さらに、連携し合って分業するために各部門・各担当者の業務内容を蓄積していく必要があり、ナレッジや成功パターンの共有ができるようになります。そのため業務の属人化を解消して誰でも一定の成果を出せるため、売上が向上するでしょう。
他部門との関わり方
営業プロセスの分業により、インサイドセールスは他部門とどのように関わっていけば良いのでしょうか。関わり方のポイントを紹介します。
インサイドセールスとマーケティング
インサイドセールスは、マーケティングからリードを引き継ぎます。
マーケティングは、展示会やセミナー、WebサイトやWeb広告などさまざまなマーケティング施策を通じてリードを獲得します。氏名や企業名、連絡先などのリード情報と、獲得した施策や経緯などの情報をインサイドセールスへと引き渡します。
インサイドセールスは、マーケティングから引き継いだ情報を基にして、各リードに最適なアプローチ方法を考えて関係性を築いていきます。
インサイドセールスとフィールドセールス
インサイドセールスは、リードとの商談を創出してフィールドセールスへと引き継ぎます。
ナーチャリング施策によってリードの購買意欲を高め、確度が十分高くなったリードをクオリフィケーションしてフィールドセールスへと引き継ぎます。この際、リードがどのような状態になったら引き継ぐのか、フィールドセールスと具体的に話し合っておきましょう。
また、フィールドセールスへとリードを引き継ぐ際には、今までヒアリングした内容ややり取りの履歴なども共有します。フィールドセールスが商談で最適な提案をするために役立つでしょう。
インサイドセールスとカスタマーサクセス
リードを対象とするインサイドセールスと、既存顧客を対象とするカスタマーサクセスは、一見するとあまり連携が必要ないと思うかもしれません。
しかし、インサイドセールスが入手したリードの課題やニーズなどの情報は、カススタマーサクセスのアフターフォローに活用できます。また、カスタマーサクセスから受注後のアップセル状況や解約率などをヒアリングすることで、「アップセルにつながりやすい層」や「解約率が低い層」などを分析でき、インサイドセールスのターゲティングや施策などに役立てることができるでしょう。
インサイドセールスの業務フローを効率化するには
インサイドセールスは、企業の売上を向上させていくためにはなくてはならない存在のため、担当する業務も多岐にわたります。複雑な業務フローを効率化するためのポイントを3点紹介します。
他部門と情報共有できる体制を構築する
これまで述べてきたとおり、インサイドセールスは他部門との連携が必須ですが、部門間連携で特に重要なのが情報の共有です。部門が異なるとオフィス内での位置が遠かったり、外出や会議が多くてオフィスにいる時間が少なかったりするため、なかなか顔を合わせて情報を伝え合う時間を設けられません。したがって、リアルタイムで情報共有できる仕組み作りが必要です。
たとえば、SFAやCRMなどのツールを導入してリード情報や履歴などを一元管理したり、ビジネスチャットでコミュニケーションをとったりする方法があるため、自社に合った方法を検討してみましょう。
ナレッジを蓄積する
インサイドセールスの業務フローを効率化しつつ成果を高めていくためには、ナレッジを蓄積して誰でも成果を上げられる業務フローを構築することが重要です。
たとえば、これまでの実績を分析すると「電話でアポイントをとりやすいセールストーク」や「URLをクリックしてもらいやすいメルマガの導線」などの傾向が見つかることがあります。こうしたナレッジをインサイドセールス組織内で蓄積・共有することで、メンバー全員が同じように業務フローを行い同じような成果が出るようになるでしょう。
適切なツールを導入する
インサイドセールスは、扱う情報量が膨大なうえ、行う業務も多岐にわたるため、ツールを導入することにより効率化が実現します。
たとえば、属性や問い合わせ履歴などに基づいてセグメントしてメールを配信したい場合、一件ずつメールアドレスを転記しているとミスが起きたり手間がかかり過ぎたりして非効率です。そこで、メール配信ツールを導入すると、セグメントメールなどのメール施策を手軽に実行できます。
また、SFAやCRMといった営業情報をリードに紐づけて管理できるツールを導入するのも一案です。
まとめ
インサイドセールスの業務フローを簡単に言うと、マーケティングからリードを引き継ぎ、ナーチャリングを行って購買意欲を高めた段階で商談を創出し、フィールドセールスへと引き継ぐ、といった流れになります。この業務フローからもわかるように、インサイドセールスは他部門との連携が欠かせないため、部門間で連携し合える営業プロセスの構築が求められます。
本記事を参考に、自社の営業プロセスを見直して分業化を取り入れてみてはいかがでしょうか。