KPIを起点に、営業・導入支援・カスタマーサクセスの連携を図る
前回の記事「『売って終わり』ではない世界に欠かせないカスタマーサクセス “長くて深い”関係をつくるためのヒント」では、HubSpotの「導入支援」と「カスタマーサクセス」とはどのようなものか、ご紹介しました。
これまでの連載でもお伝えしていることですが、カスタマーサクセス部門においても、社内のメンバーに対して顧客の成功につながる的確な行動を促すには、思想を掲げるだけではなく「KPIの戦略的設計」が重要なポイントとなっています。
今回は、HubSpotのカスタマーサクセス部門におけるKPI設計の具体的な工夫をふたつご紹介します。
ポイント1)部署でオーバーラップしたKPI・ルールを持つ
第2回の記事でもご紹介しましたが、HubSpotでは部署をまたいでオーバーラップした(重なり合う)KPIやルールを設定しています。
たとえば、顧客が購買したあと一定期間を経ずに解約になってしまった場合、その案件は営業のインセンティブ算出のカウントから外される仕組みがあります。このルールがあることで、営業担当は自然と「この顧客は今このプロダクトを購買する必要が本当にあるのか」と自問するようになります。
同時に当該ルールを通じて会社のスタンスが明確化されていることにより、カスタマーサクセスチームの導入支援担当者・カスタマーサクセス担当者も「このままこの契約を続けることは顧客のためにならないのではないか」という懸念を感じた際、それを抑えることなく社内に問いかけることができるようになっています。
ポイント2)「自分たちが売る」ではなく「顧客が買う」という視点でKPIをとらえ直す習慣をメンバーにつけさせる
HubSpotのカスタマーサクセスチームでは、「自分たちの理想的な売り方」ではなく「顧客の理想的な買い方」という角度からKPIをとらえていく習慣をチームに浸透させる取り組みを実践しています。
たとえば、HubSpotではカスタマーサクセスにおけるKPIのひとつとして、アップセル(購入単価アップ)の件数やクロスセル(セット売り)の件数を置いています。
アップセルもクロスセルも、目標設定としては「Sell(売ること)」なのですが、ここで改めて考えたいのは、購入するのは顧客であるということ。顧客の立場になって「アップセル」が実現しているときはどういうケースか、顧客が別のプロダクトも利用が必要だと感じ「クロスセル」が起きるのはどういう状態なのか。こういったことを、ときにマネージャーと壁打ちしながら具体的に考えるのです。
とくにカスタマーサクセスでは、顧客に「売る」のではなく顧客が「買う」という意識を強く持ち、「買ったあとのカスタマーサクセス」という視点で顧客とコミュニケーションをとるよう促しています。この繰り返しによりメンバーの意識が少しずつ変わっていきます。
この意識が定着してくると、たとえば(そもそもあまり起こってはいけないことですが)「顧客の今の状況では、営業担当者が薦めたこのプロダクトはオーバースペックである」といった問題に、カスタマーサクセスチームのメンバー自らが気づくようになります。このような問題点に気づけて初めて、カスタマーサクセスチーム側から営業チームへの「本来なら一段階下のプランを購買してもらったほうが良かった」というフィードバックが実現するのです。
以上のように、HubSpotでは部門をまたぐKPIとルールを持ち、「顧客目線でのKPIのとらえ直し」を日々行うことにより、複数部門が「顧客の成功」という同じ目線で議論をしたり、意見を言い合ったりすることができています。
顧客からすれば、取引先であるHubSpotの組織構造や引き継ぎの仕組みがどのようになっているかは関係なく、欲しいのはあくまで最高の製品やサービスです。売る側にとって「部門を超えて連携すること」は難しくはありますが、顧客目線で考えれば本来当然のことなのです。