カントリーマネージャーの「泥臭さ」
――現職に至るまでのキャリア教えてください。
18年半、一貫してBtoBセールスに従事し、後半4年間はマネジメント側に回って組織全体の売上を高める役割を担っていました。1社めに日系のIT企業で非製造業領域におけるエンタープライズ営業を5年半経験し、それ以降は外資系の企業3社でキャリアを積みました。3社に共通しているのは、1社めと同様に直販のエンタープライズ営業中心であったこと、そして情報やデータなどの「売りづらい」商材を扱っていた点が挙げられます。
会社員としてのキャリアで印象に残っているのは、4社めにあたるApp Annieでのマーケティングマネージャー経験です。前任が途中からいなくなってしまい、「誰かがマーケティング業務を巻き取らなければいけない」状況になってしまったのです。私自身、実はマーケティング業務に従事した経験はなかったのですが、「いい機会なのでチャレンジしてみよう」とゼロスタートで取り組んだことは印象に残っています。マーケティング部門が管轄するリード獲得からインサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスまで、川上から川下まで一貫したマネジメントを経験できたことは非常におもしろかったです。
また、The Modelを組織に定着させていく過程も印象に残っている取り組みのひとつです。App Annieの日本法人に適した運用方法へ落とし込むべく、元のThe Modelのフレームワークを一部調整しながら、パフォーマンス向上につなげる導線づくりとその定着を主導しました。
そうした取り組みを評価いただいたこともあり、App Annieでは、最終的に日本法人の代表取締役――いわゆる「カントリーマネージャー」に就任しました。「外資系日本法人のトップ」という華やかな肩書きではありますが、実態は非常に泥臭かったです(笑)。
カントリーマネージャーの仕事が「泥臭く」なってしまう理由のひとつは、徹底的な分業体制による弊害です。各自が自分の職責を果たそうと効率を追求するあまり、優先順位が下がった業務が後回しにされてしまうんです。プレイヤーからすると優先順位が「低い」業務も、マネジメント層からすると優先順位が「高い」ケースは少なくなく、優先順位づけの段階から軋轢が生じてしまっている様子に多々立ち会いました。そうした優先順位の食い違いによって取りこぼされたタスクを、カントリーマネージャーとして拾いに行って、なんとか対応してもらえるように各部門とコミュニケーション取りながら走り回る日々でしたね。
これと並行して、本社とのコミュニケーションは取りつつ、直接数字にはつながらないものの非常に重要な、プロダクトのマイグレーションなどの業務を「いずれ君たちのためになるから、対応してほしい」などと「人間的なコミュニケーション」を駆使しながら進めていきました。
カントリーマネージャーに就任する以前より、マネジメント層が困るであろう問題を先回りして整理し、改善策を提案することは意識的に取り組んではいましたが、カントリーマネージャーが拾い集めなければいけない案件の数や、海外本社からのリクエストの多さなどは、当事者になってはじめて可視化された部分でしたね。
――向井さんのキャリアの中でも、とくにApp Annieでのご経験が現在に影響を及ぼしているのではないかと感じさせられます。改めて、App Annie内でのキャリアをお聞かせください。
最初は新規営業のフィールドセールスとして入社し、翌年シニアセールスのポジションに、そしてそのまた翌年には新規チームのマネージャーを経験しました。そこからマネジメントを2年ほど経験したところで、一度真剣に転職を考えるタイミングがありました。
業務に取り組む中で、アプリのデータだけではなく、企業のアセットであるデータをきちんと集めて統合し、それらを活用できるようなプロセスづくりに携わりたい気持ちが募り、「転職」の文字がよぎるようになったんですた。他社からもオファーをいただいていため、辞める方向で話を進めていたのですが……ちょうどそうしたタイミングで自分の上司にあたるカントリーマネージャーの異動が決まり、CEOから「日本法人の代表を任せたいと思っていた」と明かされたんです。カントリーマネージャーはなかなか踏めないキャリアですし、かねてよりチャレンジしたい気持ちはあったため、この声掛けをきっかけにApp Annieへの残留を決断しました。
カントリーマネージャーに就任する以前は、新規ビジネス領域に特化したマネジメントを行っていたため、「契約後の既存顧客へのアップセル」や「カスタマーサクセス」のチームに対するマネジメント経験がありませんでした。そのため、1年間彼らのマネジメントを実施したうえで、日本法人全体へとマネジメント領域を広げていくかたちでした。