「火は灯せたのに燃え広がらない」──そんな停滞に覚えはありませんか?
「おっしゃるとおりです」「たしかにそれは重要ですね」──商談中、顧客は何度もうなずいてくれた。提案内容にも納得してくれて、その場ではたしかに火は灯せた。けれど、その火は燃え広がらない。次のアクションが生まれず、商談の熱は徐々に冷めていく。顧客の関心も理解もあるはずなのに、なぜか商談が“動き出さない”──そんな経験はありませんか?
私自身、何度もこうした経験をしてきました。あるスタートアップ企業に対して、全力でプレゼンテーションを行ったときのこと。商談後にいただいたのは、「今日のプレゼン、今まで見てきた中で最高でした」という言葉でした。私はそれが本当に嬉しくて、営業として認められたような気がして、心から満足していたのを覚えています。
しかし、数日後に届いたのは、「社内で検討した結果、今回は見送りで……」という一報。今振り返れば、その理由ははっきりしています。提案には手応えがあった。でも、その提案を「どう進めていくか」を一緒に描けていなかった。顧客にとっては、「良い話だった」で終わってしまったのです。どれだけ響いた提案でも、“次の一歩”が見えていなければ、商談は動かないという事実を痛感しました。
前回記事では、そもそも返事が来ない「商談後ノーレス」のケースを扱いました。顧客の反応が不明瞭で、当事者意識が芽生える前にフェードアウトしてしまうケースです。今回扱うのは、「顧客は提案に理解を示し、関心も持っている。にもかかわらず、“商談が動き出さない”」という“もう一歩先”のケースの課題です。
サービス説明が9割の資料では、「商談」は動かない
では、なぜ“前に進む筋道”が描かれていない商談が、これほど多く生まれてしまうのでしょうか? その背景には、営業という仕事に内在する思考のズレがあります。多くの営業が「提案で納得を得ること」までをゴールだと無意識に捉えてしまっているのです。
実際には、初回商談はゴールではなく、スタートライン。どこから始め、誰を巻き込み、どうゴールに向かうかを共に設計する、営業の真価が問われる場なのです。こうしたズレが起こるのは、営業の評価構造や、日々扱っている提案フォーマットにも原因があります。
提案はプレゼン力や資料の完成度で判断されやすく、「納得してもらえたかどうか」が成果とされがちです。その結果、「顧客がどう動けるか」よりも、「自分がどう説明できたか」に意識が偏ってしまう。
流通する営業の提案テンプレートでも、サービスの価値や導入メリットは丁寧に解説されていても、最後の「今後の進め方」はわずか1ページ、あるいは口頭説明のみで済まされているケースも多いです。提案そのものが“説明完結型”であり、“共創設計型”になっていないのです。

商談が止まるのは、顧客の温度感が低いからではありません。営業が“スタートからゴールまでの設計”を共に描く視点を持っていないからなのです。商談を前に進めるためには、完璧な資料より、「自分たちがどう動けるか」が見える進め方が必要です。“今後の進め方”こそが、もっとも丁寧に、そして顧客ごとに設計されるべき提案の核となります。
営業に求められるのは、「伝える人」から「共に設計する人」への進化です。そこで、ここからは、「共創プロジェクトの5つの鍵」をご紹介します。“商談の設計力”を誰でも実践できるように構造化した実践的なフレームです。