クラウド化を凌駕するAI移行の衝撃
──ガナパティさんはCRMソフトベンダーのSiebel Systemsでキャリアをスタートさせ、Salesforceで上級副社長を務めたのち、AIスタートアップのTact.aiを創業して2025年8月にGainsightのCEOに就任されました。
はい。1990年代のメインフレーム時代からクライアントサーバー、クラウド、モバイル、そして現在のAIと、数多くのプラットフォーム移行を経験してきました。私がこれまでのキャリアで目にしてきた変化の中で、今回のAIへの移行は間違いなく最大級のものです。
過去、オンプレミスからクラウドへの移行で変わったのは、主にソフトウェアの「構築方法」と「販売方法」でした。データセンターの代わりにクラウドを使い、永久ライセンスの代わりに月額サブスクリプションで提供するようになったのです。しかし「誰がそのソフトウェアを使うか」という点は変わりませんでした。
AI移行における最大のポイントは、単に利便性が上がるだけでなく「誰が仕事をするか」という前提が覆ることです。これまでのソフトウェアは、人間が仕事をするのを助けるツールでした。しかし今、人間ができる仕事を自らこなすソフトウェアが初めて登場したのです。これは業界のあり方を根底から変える、極めて大きな転換点です。
──ソフトウェアそのものの価値も変わっていくのでしょうか。
SaaS企業の成り立ちが変わるでしょう。かつてはソフトウェアを開発するために莫大な資金を調達し、エンジニアを雇い、1年以上かけて最初のバージョンを作るのが当たり前でした。しかし今や、コードを書くのは人間ではなくAI(エージェント)になりつつあります。
つまり、ソフトウェアを作ること自体はもはや競争優位性にはなりません。生活を少し良くするだけのビタミン剤のような存在では生き残れず、顧客の切実な課題を解決する真の鎮痛剤であることが求められます。これからは、提供した成果に対して料金を請求するモデルへとシフトしていくでしょう。
「SaaS is Dead」が示唆する新たな生き残りルール
──最近よく耳にする言説「SaaS is Dead」について、ガナパティさんはどのようにお考えですか?
「これまでの古いSaaSのやり方だけでは不十分になる」という意味では一理あります。かつては、独自の知的財産となるコードを作成し、そのコードが生み出す継続的な収益(リカーリングレベニュー)だけで会社を運営できました。しかし、ソフトウェアの構築が容易になった今、その前提は崩れています。
これからのSaaS企業は「コードの上にどのような付加価値を提供できるか」を自問しなければなりません。自社が持つ専門知識、特定のワークフローにおける知見、あるいはシステム内のデータ。これらを活用して、いかに顧客に実利をもたらすか。価値に対するハードルは、以前よりもはるかに高くなっています。
──AIを“後付け”するだけでは不十分ということですね。
そのとおりです。5年前と同じようにユーザーが手動でツールを使い続けると想定しているなら、その会社に存続の権利はありません。「AIネイティブ」の視点から製品を再構築する必要があります。
また、これまでは多くの顧客の最大公約数的なニーズを満たす汎用ソフトウェアが主流でしたが、AI時代には顧客ごとに高度にカスタマイズされた体験を提供できなければなりません。この新しいルールを理解し「製品」ではなく「顧客との関係性や成果」に軸足を移せる企業だけが、AIの世界で繁栄していくでしょう。

