「検討します」の裏で何が起きている? 停滞した商談を動かす「聞き方」の技術
向井 商談中は手応えを感じていたのに、「一旦持ち帰って検討します」と足止めを食らう。そんな合意形成の入り口にすら立てない場面も多いですよね。この沈黙の裏では一体何が起きているのでしょうか。
原 私の経験上、大きく3つのパターンに分かれます。ひとつめは、「単なる社交辞令」。まったく刺さっていなくても「良いですね」と頷いてくださることがあります。
ふたつめは、「価値は感じているが、社内への通し方がわからない」。本人は導入したいけれど、上層部を納得させるロジックが組み立てられず、困っている状態です。
3つめは、「社内ルートが見えていない」。どの部署の誰を巻き込めばゴールに辿り着けるのか、地図がないため一旦立ち止まってしまうケースです。
向井 どのパターンに該当するのかを見極める術はありますか?
原 まずはシンプルに「聞いてみる」ことです。「正直なところ、今の話は刺さりましたか?」とストレートに尋ねても全然良いと思います。
また、「良さそうだと感じたのは、具体的にどの部分ですか?」と聞き、お客様自身の言葉で語ってもらうのも有効です。お客様の理解度や熱量がわかりますし、営業も「では、そのポイントを軸に社内を説得していきましょう」と、次のステップに踏み出せます。

向井 「聞くこと」をせずに、「よろしくお願いします!」と伝えるだけの営業は多いですよね。
原 そうなんです。ただ、パターン2と3の「担当者が社内の通し方がわからない」というケースの場合、「聞き方」に注意が必要です。たとえば「あなたが意思決定者ですか?」とか「予算はありますか?」といったBANT情報を埋めに行くような聞き方は、失礼にあたるので絶対に避けるべきです。
向井 原さんはどのような聞き方をされているのですか?
原 私はよく「どなたが何を重要視しているか教えていただければ、その方専用の説得材料を準備します。ほかにどのような方へのご説明や協力が必要になりそうでしょうか?」という聞き方をしています。
理由は明白で、ステークホルダーごとに刺さる「メッセージ」が異なるからです。部長、システム、経理……それぞれ見ている指標が違うのに、全員に同じ「金太郎飴」のような提案書を回覧させてしまう。これが、合意形成を頓挫させる最大の原因になります。
もしパターン3の「お客様自身も誰を巻き込めば良いかわからない」状況でも、営業が組織図から「この方の巻き込みが必要では?」と仮説をぶつけ、時には自ら各部署へ「伝書鳩」のように通い、現場の声を拾い集めていけば良いのです。
お客様に「この営業は自分たちのために汗をかいてくれるパートナーだ」と認識していただければ、自然とお客様の熱量も高まり、情報を開示してくれるようになります。
明日からできる「対人力」を磨くための4つのアクション
向井 ここまでのお話で、エンタープライズ営業の真髄が「人対人の合意形成」にあることがよくわかりました。合意形成のスキルを磨く第一歩として、まず何から着手すべきでしょうか。
原 大きくふたつのアドバイスがあります。まずひとつめは、「営業を受けてみる」ことです。車や保険などの営業でも構いません。自分が「買う側」に立ったとき、「自分のニーズからズレた提案」をぶつけられたらどう感じるのか。逆に、どういう振る舞いをされた時に「この人なら信頼できる」と感じるのか。こうした「逆営業」体験は、自分がお客様に与えている印象を客観視する良い機会になります。
ふたつめとして、「これまでの武器が通用しない環境に出てみる」ことです。普段営業している先が事業部門なのであれば、まったく接点のない企画部門や管理部門に営業しに行ってみる。製品の機能説明や定型の営業トークが通用しない相手と対峙したとき、多くの人は「話すことがない」という事実に愕然とするはずです。それは、これまで「目の前の人の心を動かす」という本質的な営業ができていなかった証左でもあります。
向井 あえてアウェーに身を置くことで、新たな気づきが得られるということですね。一方で、明日の商談からすぐに実践できるTIPSはありますか?
原 第一印象はすぐに変えられます。まずは「見た目のTPOを徹底的に相手に合わせる」こと。企業の採用ページなどを見れば、その会社の空気感がわかります。スーツの色味やネクタイの有無など、相手の文化に合わせて身だしなみを整えるんです。そうした細かい配慮で、クレジット残高は積み上がっていきます。
もうひとつは、「お客様を笑顔にする意識を持つ」こと。アイスブレイクで面白い話をするということではなく、こちら側から笑顔で接するミラー効果や、相手へのリスペクトを込めた雑談から、お客様の笑顔を引き出すのです。
私はあまり過度なアイスブレイクはせず、手堅く商談を進めることが多いのですが、ふとした隙に「相手が好きそう、こだわっていそうなこと」で雑談を差し込みます。こだわりを尊重されたお客様は次第に心を開き、普段は出さない「本音」や「社内の生々しい力学」をポロっと話してくださったりするんです。
向井 目の前の相手を、法人ではなく「ひとりの人間」として接し、距離を縮めていく。結局は、そうした誠実な姿勢の積み重ねなんですね。
