「コモディティ化しないAI」の育て方
──AIがつくったとひとめでわかるような、「同じアプローチ」を回避する工夫はないのでしょうか。
今井(セレブリックス) たとえば提案書をつくる際、構成など「0から1」の過程をAIに任せる人が多いようですね。でも、これは変えたほうが良い。「0から1」をつくるためにAIを使うと、アウトプットがコモディティ化するからです。
私はだいたい60%まで自分でつくり、最後の完成段階でAIを使っています。日頃からAIに自分の文章の書き方や思考パターンを覚えさせたうえで、60%の完成度のテキストをわたす。修正を繰り返して完成したら、AIに完成報告をして「完成形と、あなたが最初に生成したものとの違いを分解してインプットして」と指示し、学習させるんです。
こうしてAIに完成形を覚えさせ、ファインチューニングすることで、AIでつくったとは思えないアウトプットが得られるようになります。
増岡(HubSpot) 今井さんのお話は、HubSpotが提唱している「Loop Marketing」の思想と非常に近いですね。Loop Marketingは、自社をどのようなコンテキスト(文脈)で表現したいか設定する「EXPRESS(表現)」からスタートします。それから、個別化したコンテンツを適切なチャネルで発信し、PDCAを回していく。
AIも同様に、まずは買い手へ何を、どのように伝えたいか設定しなければならない。そうしないと、AIのアウトプットはコモディティ化するか、ハルシネーションが起きてしまいます。
HubSpot Japan Head of Sales 日本事業 営業統括責任者 増岡 怜治氏
2007年、日本NCR入社。(その後日本テラデータに転籍)主に百貨店・コンビニ、私鉄関係の大手企業を営業として担当。2013年、セールスフォース・ジャパンに入社。従業員数10万人規模、事業売上1兆円以上の大手製造業を複数社担当。その後、ECプラットフォーム製品の営業組織のマネジメントとBtoB向けサービスの日本展開に従事ののち、2021年より中小企業のDXを通じた企業変革をマネジメントとして支援。2025年よりHubSpot Japanに入社し、日本企業を営業責任者として担当。延べ数百社を超える企業のCRM・企業変革に紐づくDXの導入活用・成果創出を支援。
AIは“写し鏡” 自分以上には賢くなれない
今井(セレブリックス) 最近、社内で「うまい表現だな」と思ったのが、今の営業とAIの関係は「クッキングスタジオモデル」か「レトルトモデル」か、という話です。
昔はクッキングスタジオモデルで、マネージャーが隣にいて「ここは違う」「こう変えてみろ」と手ほどきしていました。メンバーは自ら手を動かし、失敗や成功を繰り返しながら、営業の「センス」を磨いていったんです。
一方で、AIはレトルトモデルに陥りやすい。電子レンジで温めるように、AIに指示を出すだけで“正解らしき”アウトプットを得られます。しかし、自分でつくるプロセスを経験していないから、何が味の決め手になるのかわからない。そのため、いかにもAIがつくったとわかる資料に気づけない、より良いアウトプットを得るための方法がわからない人が増えてしまいます。
茂野(ビズリーチ) AIはあくまで“写し鏡”であって、使い手の意図や思考の深さを越えるようなアウトプットを得ることは難しいのです。本来は、AIでアウトプットを効率化しながら、営業の「センス」も身に着けなければならない。しかし実態は、AIによるアウトプットの“量産”でとどまっています。
今井(セレブリックス) なぜそうなってしまうかというと、そもそもマネージャーが感覚的なアドバイスしかできず、AIに伝えるべき“レシピ”を言語化・構造化できていないからだと思うんです。
だからメンバーも、AIに対して「かっこいいデザインにして」といった曖昧な指示しか出せない。たとえば資料作成なら、「骨子作成」「肉付け」「ストーリーの見直し」「デザイン」に分解して具体的な依頼ができれば、もっと良いアウトプットが得られるはずです。
うまく活用できないのは“AIの問題”か? 顧客と会う前に勝敗が決まる時代、AIが再編する「マネジメント」と「CRM統合」について議論する後編は1月30日(金)公開予定!
