「1日あたりの顧客面談時間40%」を目指す 現場主導で進めるKDDIのAI活用
田口 山田さん、ありがとうございました。続いてKDDIの森さん、お願いします。
森(KDDI) 当社の事業はauの携帯電話に留まらず、ネットワークやIoTなど多岐にわたるため、法人営業担当者には幅広い知識が不可欠です。お客様への提供価値の向上、人材の早期育成、データドリブンな経営判断の迅速化を目指し、2年前に「KDDI-BX」というビジネストランスフォーメーション活動を立ち上げました。
この取り組みは「攻めと守り」のふたつの柱から成り立っています。第一に、新時代の営業スタイルへの転換。第二に、営業成果を最大化するための生産性向上です。2027年4月までに、1日あたりに顧客と関わる時間(対面含む)を23%から40%まで引き上げることを目指しています。
これは営業改革に留まらず、経営改革にまでおよぶ抜本的な取り組みです。なぜなら顧客との面談時間を増やすには、業務フローやプロセス自体を変え、営業担当の負担を軽減していかなければならないからです。そのためAI活用においても、単にツールを導入するのではなく、ビジネスプロセス全体を変革しなければなりません。

森 そこでKDDIの場合、まずは現場の課題(ペイン)を特定することから着手しました。
顧客への価値提供と営業利益向上のためには、アカウントのターゲティング戦略、営業プロセス、マネジメント、人材育成など、多岐にわたる課題解決が必要です。2年前にプロジェクトを開始した当初、KDDIには約20項目の組織課題がありました。これらの課題を深掘りしてマッピングしていき、現在はターゲティングやマネジメント、システムグランドデザインなどさまざまな課題解決を担うバーチャル組織が、ワーキング形式で運営しています。
このワーキング形式がKDDIの特徴ですね。主に20代・30代の社員やキャリア採用者が自ら希望したり、推薦されたりしてバーチャル組織に参加し、変革を進めています。社内の副業制度などを活用して現場を巻き込む手法が功を奏して、エンゲージメントも非常に高まっていますし、「未来の組織像を自らつくっていこう」というやりがいも感じているようです。
AI活用も、そうしたボトムアップによる変革の中で進めてきました。具体例のひとつが、レビュープロセスの簡略化です。かつてはグループリーダー(課長)、部長、本部長といった多段階のレビューが必要でしたが、現在は、AIが忙しい上司の代わりに社内外の情報を網羅し、レビュープロセスを簡略化しながら品質向上と効率化を図っています。 また、商談時のディスカッションペーパー作成においても、ハイパフォーマーのノウハウをプロンプト化し、AIによる自動生成を行うことで、業務効率化と品質向上の両立を実現しています。
このほか、ChatGPTやGeminiのような汎用AIをはじめ、単機能AIプロダクトの導入など、さまざまなツールも併用しています。将来的には、複合的なAIによる自動化とワーカー化を見据え、PoC(概念実証)を実施しています。

森 しかし、AI導入は必ずしも順風満帆だったわけではありません。商談録音ツールに対して、ベテラン社員からの反発や「見られるのが怖い」といった声もありました。「お客様のためになる」という目的を丁寧に伝え、個別ヒアリングを通じてフィードバックを迅速に改善サイクルに反映させることで、徐々に現場に浸透させていきました。
田口 多くの企業が直面する「最初からうまくいかない」という課題に対し、丁寧なコミュニケーションで乗り越えてきたのですね。
