魔改造を乗り越え「営業の楽しさ」を感じられる組織へ
田口 両社の取り組みをうかがったところで、次のテーマです。営業企画や営業推進に携わる皆さんが中長期的なAI活用を模索していますが、両社は2025年末までに、どのような目標を掲げていますか。
森 日々試行錯誤しながらアジャイルに活動しているので、計画は常に見直しています。
そのうえで2025年12月までに目指すのは、営業プロセスごとのAI導入レベルを可視化することです。 個人がAIを使い、メールの返信やプレゼン資料作成の効率が向上できれば、それはそれで素晴らしいことです。しかし、その利用が営業組織全体の生産性向上にどれだけ寄与しているかと言えるかというと、やはり具体的に示すのは難しい。経営改革という観点からは、投資対効果(ROI)が見えにくいと言えます。
山田さんのお話にもあったように、AI活用はいかに標準プロセスに組み込むかが重要です。エージェントを導入して活用状況を可視化し、AIの導入レベルが期待値どおりに高まっているのか測定し、最終的には、それらを自動化されたシステムへと発展させていきたい。結果的に組織全体の生産性向上につながっているか、見極めたいと考えています。
田口 山田さんはいかがでしょうか?
山田 2025年12月までに、現在の取り組みをさらに強化していくこと。加えて、2026年度から始まる中期経営計画に向けて、次の3年間を描くことが目標です。
新たな中期経営計画では、AIを単なるツールではなく、経営アジェンダとして位置づける予定です。個人的には「顧客体験の変化」「生産性の向上」「新しい価値の創出」のいずれか、またはすべてを満たして初めて「計画が成功した」と言えると考えています。そのために、お客様との物理的・心理的・時間的な距離を限りなくゼロに近づけることを目指したいですね。
田口 中期経営計画のような経営アジェンダは、各部門でプロジェクトに落とし込みますね。その際、経営層からのアジェンダを整理しきれない、AIが関与するとデータマネジメントや既存ITシステムとの連携が複雑で、プロジェクトとして成立させるのが難しい、要件定義がわからないといった悩みをよくうかがいます。
とくにデータドリブン基盤やデータ基盤整備の領域では、営業現場のプロセスだけでなく、システム全体の検討が欠かせません。おふたりのチームでもそうした課題に取り組んでいらっしゃると思いますが、難しさを感じた点はありますか?
山田 たとえばSalesforceを例にとっても、標準的な運用が定まっていないことから、各現場のリクエストに応えて多様な機能が追加される「魔改造」が繰り返されてきました。その結果、複雑化して使いづらくなったり、新たな機能を追加しようとすると既存の機能の削除が必要になるなど、技術的負債が蓄積している状況です。この状態をいかに改善していくかが課題であり、現在も解決に向けて取り組んでいる最中です。

森 KDDIでも魔改造が生じているので、お気持ちはとてもよくわかります。KDDIの場合は、2024年に営業フェーズを抜本的に組み替えました。SFA/CRMへの紐づけもすべて変えて、生産性を可視化できる仕組みに変えたのです。しかし、これはあくまで部分的な変革です。将来的には、営業担当が「営業の楽しさ」を感じながらお客様に向き合えるように、全体の設計デザインの変革を目指しています。
田口 将来的に変更するとしても、まずグランドデザインを描くこと、それを現場の課題から丁寧につくり上げていくことの重要性を改めて感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
