9割超を標準機能で開発 それでもRaySheetが必要だった理由
──まず、今回のCRM刷新の背景と、その中でSalesforceを選定された決め手についてお聞かせいただけますでしょうか。
武井 当行ではCRMだけでなく、預金や融資に関する基幹システムもリリースから20年が経過していました。全社的にモダナイズを進めるプロジェクトが立ち上がり、そのひとつがCRMの刷新です。というのも、従来のCRMはお客様とのやりとりの記録化が中心で、拠点業務を支援する機能が不足していたのです。また、長年の改修でシステムが複雑化し、機能追加に時間もコストもかかる状態でした。
CRM刷新にあたりSalesforceを選定したのは、第一に「お客様を中心とした設計思想」が我々の目指す姿と非常にマッチしていたからです。最新機能がアップデートされ続ける点や、RaySheetをはじめとする豊富なAppExchangeアプリケーションによって機能を拡張できる点が決め手となりました。

2002年同行に入行。現場と本部を行き来する特殊なキャリアを持つ。これまでに3つの支店で勤務後、本部にてBPRやシステム企画を担当。再び拠点で営業を経験し、また本部で富裕層顧客営業を対象としたCRM開発に従事。その後、支店長を経て、現在は本部にてCRMプロジェクトマネージャーを務める。現場で抱いた課題意識を本部で解決し、その成果を現場に持ち帰って新たな課題を発掘するという循環を繰り返している。現場の実感を持った施策展開や開発リリースを実現。
──開発にあたっては、標準機能を重視されたとうかがっています。
武井 はい。過去の失敗から、SaaSパッケージを我々の業務に合わせるのではなく、「やりたいことをSalesforceの標準機能でつくったらどうなるか」という考えのもと開発を進めました。結果として、構築の93%を標準機能で実現し、開発スピードを大幅に上げることができたのです。
──では、残りの7%を補うためにAppExchangeを活用されたのですね。RaySheetを導入された背景には、どのような課題があったのでしょうか。
金井 現場では「大量のデータを一覧で、かつ日常的に更新する」という業務が必ず発生します。とくに「案件データ」がそれに当たります。
当行では1つひとつの商談を「案件」と呼び、1社につき数十件の案件が発生することもあります。ひとりの営業担当者が常時250件ほどの案件を管理しているのですが、それらの進捗状況や予定日を、Salesforceの詳細画面を1つひとつ開いて更新するのは現実的ではありません。
複数の案件を横並びで見ながら、進捗や完了予定日を一括で更新したい。このニーズに対して、Salesforceの標準機能だけではカバーしきれない部分がありました。そのため、プロジェクトの当初から、Excelと同じような操作感で一覧表示と一括更新を実現できるRaySheetの導入を決めていました。
──ほかの製品とも比較検討されたかと思いますが、最終的な決め手は何でしょうか。
金井 決め手はふたつあります。ひとつは「操作性」です。Excelをベースにして独自開発した従来のツールに近い操作感で、現場の負担を軽減できると考えました。とくに、行の複製や範囲を選択したうえでのコピー&ペーストの機能は、我々の業務要件として非常に重要でした。

2019年同行に入行し、現在キャリア7年め。最初の3年間はふたつの拠点で営業現場での経験を積む。2022年に企画グループへ異動後、2025年からはシステム企画グループに所属。新CRMのシステム開発、バージョンアップに取り組んでいる。拠点での経験を活かし、現場が抱える定量・定性両面の課題感を鮮度高く把握。Salesforce導入の段階からプロジェクトに関与し、現場の声を活かしたシステム改善に尽力している。
金井 そしてもうひとつは「丁寧なサポート」です。導入前にトライアル版でデモ画面を用意してもらえたため、実際の画面を現場の行員に見せて「これまでのツールと比べて操作性はどうか」と直接フィードバックを得ることができました。
また、メシウスさんにはRaySheetで実現できる範囲をくわしく教えていただけたため、「この機能は実現できないから、こういう運用でカバーしよう」といった事前対策をしっかり練ることができました。
武井 金融機関独自の厳しいセキュリティ審査においても、RaySheetはAppExchangeアプリケーションとしてSalesforceの基盤上で動作するため、Salesforceの外部にデータを送信することはありません。
そのため、セキュリティに関する手続きを大幅に省略でき、通常なら半年以上かかるところを2ヵ月ほどで導入できました。このスピード感も非常に大きなメリットでしたね。
1日に1回が「1時間に1回」へ 営業現場へデータ活用が浸透
──実際にRaySheetを導入されて、主にどのようなシーンで活用されていますか。また、それによって営業現場にどのような変化がありましたか?
金井 活用場面は大きくふたつ、「計数管理」と「案件管理」です。計数管理とは、各営業担当者の目標に対する実績や進捗を管理する業務のことです。これまでは、これらの情報をExcelや独自の案件管理ツールで管理していました。そのため情報がツールの中で閉じており、顧客情報と分断された「サイロ化」の状態だったのです。
今回、RaySheetをSalesforceに組み込み、計数管理や案件管理を従来のExcelのような操作性で行えるようにしたことで、計数や案件の情報がお客様の情報としっかりと紐づきました。「このお客様の案件状況はどうなっているか」という情報がCRMを見ればひと目でわかるようになり、現場の業務効率は格段に上がったと感じています。
──情報のサイロ化が解消されたことで、具体的な業務プロセスにも変化はありましたか?
金井 もっとも大きな変化は、BIツールであるTableauへのデータ連携のスピードです。以前のツールでは、1日に1回しかTableauへデータが反映されませんでした。それが、SalesforceとRaySheetを導入したことで1時間に1回に短縮されたのです。
武井 この変化は非常に大きいですね。以前は、商談から帰ってきて情報を更新しても、それが反映されるのは翌日。そのため、夕方に行われる営業会議では最新の状況が共有できませんでした。
しかし今では、帰店後に更新した情報がすぐに反映され、そのデータを見ながら会議ができます。結果として、Tableauをそのまま使う文化が根づき、会議のために別途資料を作成する必要がなくなりました。

──リアルタイム性が向上したことで、現場のデータ入力に対する意識も変わったのではないでしょうか。
武井 まさしくそのとおりです。入力した情報がすぐに使える、役に立つという実感があるからこそ、皆がきちんと更新するようになります。現場がデータをリアルタイムで活用できないことで、入力・更新されなくなるケースは非常に多いと思いますが、我々はこのクリティカルな課題をRaySheetでクリアできたと考えています。
──一方で、導入後に見えてきた課題もあったかと思います。
金井 そうですね、たとえばExcelとはフィルターの表示形式が違うなど、細かい部分で「Excelと同じ挙動ではない」という声はありました。
また、従来のツールの項目をそのまま移行したことも、反省点のひとつです。Excel形式でA3サイズの紙に出力すれば問題なかったデータも、ウェブ画面では項目数が多すぎて横スクロールが増えてしまいました。
武井 ただ、そうした現場からの声に対して、メシウスさんと連携して迅速に対応できたことが、我々にとって良い成功体験になりました。4月にリリースしたのち、現場のフィードバックを受けて6月、7月と立て続けにアップデートを実施できたのです。
拠点としても、最初は戸惑いがあったものの、「言えば改善してくれる」という信頼感が醸成され、むしろ「一緒にこのCRMを育てていこう」という前向きな雰囲気をつくれたことが大きな収穫でした。
目指すは「Same Side of the Table」 顧客と向き合う時間を最大化するために
──RaySheetの活用を踏まえ、今後の展望についてお聞かせください。
武井 今後は、AIの活用をさらに進めていきたいと考えています。たとえば、お客様との会話を自動で文字起こし・要約し、活動記録としてCRMに登録する。さらには、その内容をAIが解析し、「この案件はここまで進んでいるため、ステータスを更新してはいかがですか?」と提案してくれる。そうなれば、営業担当者は活動しているだけでデータが綺麗に整理され、より営業活動そのものに集中できるようになります。
もちろん、その大前提となるのは「質の高いデータ」が蓄積されていることです。そのための入り口であるデータの入力・更新のしやすさをRaySheetが担保してくれているからこそ、次のステップに進めるのです。

──最後に、営業DXに取り組んでいる読者の方々へ、メッセージをお願いします。
武井 私たちが常に意識しているのは、「現場と一緒につくる」ということです。「Same Side of the Table」という言葉がありますが、本部も現場も、そしてメシウスさんのようなパートナーも、同じテーブルについて課題や目指す姿を共有する。目指すゴールはただひとつ、「お客様1人ひとりに、より良い体験を届けること」です。
その共通認識のもと、一体となって改善を進めていく環境をつくることが何より重要だと考えています。
金井 今回の取り組みは、単なるツール導入ではなく、組織のカルチャー改革にもつながると感じています。現場と本部が同じ目標に向かい、日々変化するお客様の課題に対して、お客様と同等、時にはそれをリードするほどのスピード感で向き合っていく。そうした文化を育む基盤として、この新しいCRMをさらに進化させていきたいです。
武井 そのために、今後のリリース予定なども含めて、かなり細かい機能レベルで情報を現場に開示しています。現場と本部が双方向のコミュニケーションをとることで、現場に「自分たちの声が届いている」と実感してもらい、一緒になってこのCRMをより良いものにしていく。システムサイド、現場、本部が一体となってお客様の課題解決に向き合える、そんな体制をこれからも強化していきたいですね。

──本日はありがとうございました!
Agentforceを活かす企業は、“データがたまる現場”をもうつくっている
Agentforceを活用するには、まずSalesforceが“現場で使われている状態”であることが重要。RaySheetは、データが自然に蓄積される仕組みをつくり、Agentforceを活かせる状態に整えます。現在、「Salesforceが“自然と使われる”10の実践シナリオ」無料配布中。