AIを軸に“仕組み”を回す! NTTコミュニケーションズの挑戦
田口 ありがとうございます。続いてNTTコミュニケーションズさんの取り組みはいかがでしょうか。
戸松 属人ではなく仕組みで営業するため、「(1)営業視点:営業基本動作の統一」「(2)チーム視点:チームセリング強化による生産性向上」「(3)経営視点:顧客ポートフォリオの選択と集中」「(4)顧客視点:顧客価値(CX)最大化」というサイクルを設定しています。
このサイクルを回すには、データを徹底的に活用しなければなりません。一次データは企業のコア・コンピタンスの最たるもの。AI活用を実現する鍵とも言えます。しかし営業にとっては、「データを入れなさい」と指示されるのはやはり大変ですよね。
そこで営業を楽にするため、音声やテキスト、動画データから必要な情報をサマライズするAIを活用し、CRMへ自動入力する仕組みを構築し始めました。こうして約2,000人の営業を対象にデータ入力の問題へ向き合っています。2024年度は65万件もの活動量がCRMに蓄積・集約されており、加えて、データレイクが完備されたことで、複数のシステムから自動でダッシュボードを作成することが可能となりました。
しかし現在でも、(1)~(4)のサイクルは人が中心となって回しています。サイクルの軸をAIに置き換えることで、たとえば、現場の営業担当でも経営層向けのダッシュボードを作成できるなど、よりシームレスなデータ活用を実現しようとしています。

戸松 もうひとつ、PoCを実施したのが、パイプライン管理におけるAI活用です。従来、フェーズを進める基準や受注確度は、営業が自らの感覚で評価していました。これも「この情報をヒアリングできたら次のフェーズに移行できる」など、事前に設定したフェーズごとの基準に沿ってAIがサジェストし、そのうえで人間が判断する仕組みをつくったんです。その結果、入力にかかる作業時間が約2分の1に削減されました。要約の精度も「期待どおり」という声が多く、本格導入に着手したところです。
このAI、「こんな情報もヒアリングできているなんて、素晴らしいですね」と、営業を褒めるんですよね。おせっかいで嫌がられるかと思っていたら、意外と「嬉しい」という声も多かった。AIとの付き合い方は、コミュニケーションもUI/UXで考えなくてはいけませんね。
これから挑戦したいこととして、ひとつはプレセールスの強化です。NTTコミュニケーションズでは、提案資料やオファリングのツールを「ナレッジパーク」と名付けたプラットフォームに集約していますが、その中から最適なコンテンツを“選べない”のが課題です。そこで、AIが自動で適切な資料をリコメンドする仕組みをつくりました。しかし、これは商談の内容からシンプルなロジックで資料を提示するというもの。小松さんがおっしゃるとおり、営業活動は、ターゲット選定と何をオファリングするかが肝ですよね。この精度を磨く次の一手を考えているところです。

戸松 もうひとつが現在利用しているルールベースのAIのリニューアルです。実は、これは2、3年前からすでに取り組み始めています。たとえばコロナ禍でリモートワークへ移行した際、「お客様のネットワークの閾値を超えた」「コンタクトセンターでコールに対処し切れていない」といった事象をシステムが自動で判断し、Teamsでアラートを発する仕組みをつくりました。アラートを出すルールは人の手で1つひとつ決めたのですが、これを生成AIに置き換えられそうだと考えています。
また、カスタマーサクセスの効率化も期待できますね。たとえばお客様との関係性を診断する「カスタマーヘルススコアカード」での活用が見込めます。現在はデータレイクからルールベースでさまざまなデータを取得して診断していますが、生成AIを使えば、お客様のウェブ履歴などをCDP(Customer Data Platform)から抽出して、どれぐらいのお客様が何に興味を持っているか分析できそうだと考えています。今まさに、この活用について研究しているところです。