現場から800件のフィードバック 期待が集まるワケ
──先ほど汎用的な資料は刺さらない、というお話もありましたが、顧客側が営業担当者に求めるスピードも早くなっているのでしょうか。
武井 たとえば私が入社した20年前は、銀行内にある一般的なレポートを提供するだけでも「良い情報をありがとう」と言ってもらえていました。一方、この20年でお客さまご自身で取得できる情報が格段に増えています。
CRM再構築にあたり、お客さまへのアンケートとインタビューを実施したところ、従来の銀行との関係性、いわゆる「メインバンク」と呼ばれるような関係ではなく、「自社のことを理解してくれること」「自分や家族のことを理解してくれること」が求められていました。付き合いの長さではなく、初めて接点を持った銀行だとしてもよく理解してくれている銀行を選ぶ、という回答が多く挙がりました。
──一方、SFA/CRM導入の際には、まず「データの収集・蓄積(入力)」と「利活用」の部分で課題を抱える企業も多いです。その点において、三菱UFJならではの工夫を教えてください。
武井 本リリースは2025年4月となりますが、入力の部分は当社もかなり工夫しています。たとえば、テックタッチのようなDAP(デジタル・アダプション・プラットフォーム)を導入しています。DAPを活用することで、入力ガイドや絞り込みなど、画面上のサポートがある程度完成します。
もうひとつの取り組みとして、NBA(ネクスト・ベスト・アクション)というレコメンド機能を用意しています。これは、行内情報のAI分析から提案切り口を発掘し、お客さまに合わせた提案書を担当者に届ける機能です。現在はユーソナーの顧客データ統合ソリューションとつなげて、外部のデータも踏まえた提案書が作成できるように用意を進めています。EPOCに情報を蓄積することで、このようなプロアクティブな支援を受けられる点も合わせて周知しています。
──連携アプリケーションを選定するときのスタンスについてうかがえますか。
村岡 Salesforceの標準機能を活かした開発をしようという点がベースにあります。とはいえ、活用を進めるなかで欲しい機能は出てくるもので、そこに自社開発を加え続けると、結局オンプレミスのときと変わらない構成になってしまいます。そこでAppExchangeのソリューション群は非常に重宝していますね。
アプリケーションを追加することで目指すのは、営業現場が求める機能を搭載した使いやすいシステムです。AppExchangeのソリューションはSalesforceとの親和性も高く、カスタムで機能を開発するよりも機動的にUX・UIに優れた機能の搭載、提供が可能です。システムの利用にあたっては、もちろんマニュアルもあり、それを読み込めば活用はできるのですが、営業1人ひとりがお客さまと日々向き合うことに忙しいなかで、1システムを使うためのマニュアルを読む時間はなかなか捻出できないですし、そういった振る舞いは本部としても本意ではありません。
武井 内部システムのUXの優先度は低くなりがちですが、第一印象って重要なんです。今後どんなに良い機能をアップデートしても、「なんか使いづらかったよね」というイメージがあると利用は浸透しません。ある意味、活用していることを意識せずとも、顧客への提案活動に集中できるようなシステムを提供したいと考えています。
──管理者は「データを蓄積するためにどうするか」みたいな視点になりやすいかと思うのですが、おふたりの話を聞いてると「現場のために良いシステムをつくる」という気概を感じます。現場の営業とのコミュニケーションは、どう進めているのですか。
武井 要件定義の前に拠点での検証を行いました。NBAについても400本ほどの提案書を作成し、実際にお客さまのところにも持って行ってもらい、フィードバックをもらっています。そのほか、ヒアリングの結果全国から800件ほど意見があり、それを分類しています。4月の正式ローンチで実装できるもの、その先のバージョンで実施したいもの、など。
──800件! どのように対応していかれるのですか。
武井 積極的でありがたいですね。皆さん前向きな意見をたくさん出してくれます。その思いを大切にすべく、800件すべてに、現状と今後の対応についてお返事しています。この動きはリリース後も続けようと思っています。
武井 加えて2024年10月に、拠点の中で5名ほどのエバンジェリストを募集しました。彼らとは1~2週間に一度のミーティングを行い、実際の画面や研修用資料などにフィードバックをもらっています。
──素晴らしいですね。エバンジェリストは現場担当者が多いのですか。
武井 そうですね。個人担当、法人担当、中堅、若手まで属性は幅広いですが、現場で営業をしている現役の担当者の方にお願いしています。ミーティングの中でも「リリースにワクワクします」と言ってもらえたり、「情報量が多いので、もっと絞ってほしいです」という率直な意見をもらったり、良い時間をつくれています。