インサイドセールス導入後、なぜ成果が出ないのか?
『インサイドセールス 実践の教科書 立ち上げから組織づくり、事業成長まで』(翔泳社)は、10年以上にわたりインサイドセールスに携わってきた才流とセールスリクエストの共著である。両社が培ってきた知見とノウハウを踏まえ、インサイドセールスを体系的に解説した1冊だ。

基本を知らずに成果を出すことは難しい。インサイドセールスの立ち上げでも、まずは前提知識を押さえることは重要だ。インサイドセールスを導入したにもかかわらず成果を出せていない企業のあるあるとして、著者は次のような例をあげる。
- 体系的なノウハウが不足している
- 全体最適の視点が欠けている
- 複雑に考えすぎている
本書の冒頭は、「インサイドセールスとは何か」という基本的な問いから始まる。「テレアポとは違う」「分業型の営業プロセスの一部」とはわかっていても、「何のために存在するのか」「どこまで役割を担うべきなのか」が曖昧になってしまっていると、せっかくインサイドセールスを導入しても成果は得られない。
ずばり、インサイドセールスの役割は「有効な商談を創出するために、リードの評価、管理、アプローチ、育成を行う」(p20)ことであり、その目的は「売上の最大化」(p22)だ。インサイドセールスの活動内容や施策は複雑化しやすいが、すべてはこのシンプルな目的に行き着くことを必ず覚えておきたい。
各フェーズでの取り組みを網羅的に解説
インサイドセールス組織は、状況やフェーズによって人数はもちろん、取り組み、目指すゴール、KPIなども変わり、生き物のように進化していく。さらには、マーケティングやフィールドセールスといった他部門との連携も強化していく必要がある。
インサイドセールス組織のフェーズは主に次のように分類される。
活動指針をつくる「立ち上げ期」(第4章)
専任担当者の人数:1~2名
目指すゴール:業務を遂行できる体制の構築とルールの作成
想定されるKPI:架電数やメール数などの活動量/商談数/有効商談数
チームを強くする「成長期」(第5章)
人数:2~5名
目指すゴール:チームの土台づくりと商談の質向上に向けた調査・見直し
想定されるKPI:商談数/有効商談数
成果を加速させる「拡大期」(第6章)
人数:6~20名
目指すゴール:チーム規模拡大による有効商談数の底上げ
想定されるKPI:相談数/有効商談数/受注数
売上を最大化させる「成熟期」(第7章)
人数:21名以上
目指すゴール:顧客層の拡大と売上の最大化
想定されるKPI:商談数/有効商談数/受注数/受注金額
それぞれのフェーズでインサイドセールスが「今やるべきこと」を、本書では図解を多用しながら視覚的に整理・解説していく。
また、売上向上を確実にするには、体制構築や戦略設計も欠かせない。著者はこの点について次のように述べる。
成果が出ないインサイドセールスは、その原因を日々の業務内容に求めてしまいがちです。しかし、実際にはインサイドセールスを立ち上げる前の準備が十分でなかった場合が少なくありません(p37)
第3章では、立ち上げの前工程として、他部門との連携体制の構築、マーケティング戦略の策定、ペルソナの作成、バリュープロポジションの定義、部門責任者のアサイン、SDR/BDRの知識について詳しく解説する。これから立ち上げる企業も、すでに立ち上げている企業も、抜け漏れがないか各章でチェックしながら進めることができ、現場の「教科書」として役に立つはずだ。
今、インサイドセールスの立ち上げに迷っているならば、次のポイントを参考にするのがおすすめだ。
著者は次の1~4にひとつでもあてはまる場合、立ち上げを推奨している
- 営業が商談対応に追われ、過去の資料請求や問い合わせに対してフォローしきれていない
- ターゲットが限定的であり、アウトバウンドが有効である
- メール・電話・オンライン商談のみで受注可能な製品・サービスを扱っており、幅広い顧客がいる
- アップセル・クロスセルできる製品・サービスを扱っており、既存顧客からの売上拡大を狙える
インサイドセールスの変化とこれから
著者は、本書で紹介するノウハウについて「必ずしもこれに当てはまらない場合もあり、またこの順番で取り組むことが正解というわけではない」と述べており、あくまでもひとつの「指針」としている。第8章では、成長期・拡大期・成熟期それぞれのフェーズにある計8社のインタビューが掲載されているが、どの企業もはじめは手探りで情報を集め、量をこなしたうえで自社に合ったやり方を見つけている。まずは教科書どおりに実践し、状況を見極めつつ柔軟に軌道修正できるかが成功と失敗を分けるカギとなるだろう。
また、8社の事例では「カルチャーづくり」や「オンボーディング・育成」のヒントも隠されているので、参考にしてみてほしい。
最後に、第3章でインサイドセールスがThe Model型の営業プロセスの枠組みを超え、一歩進んだ役割を担う可能性が示唆されている点にも触れておきたい。すでに一部の企業では新たなインサイドセールスのかたちが実践されはじめており、次のステップに進みつつあるという。
インサイドセールスは、まだまだ進化の過渡期にある。ぜひその渦の中に飛び込み、この仕事の奥深さを体感してほしい。