デジタルが苦手な人も最初からプロジェクトに参加
──メディアビジネス支援システムの開発にあたって、IT部門と営業部門はどのように連携したのですか。
小山 まずは私が当時の営業部長である佐藤さんや、経理局といった関係者のもとを行脚し、ヒアリングを重ねました。立場によって悩みが違うため、課題理解には苦労しましたね。マネージャーからは「全体の売上を把握したい」という悩みが、担当者レベルになると使い勝手の改善要望が多く挙がりました。多種多様な課題を取りまとめて、どこに根本原因があるか分析するのが難しかったです。
佐藤 システム部との協業にあたって、小山さんの業務理解が深かったので助かりました。営業部門としては、広告以外の売上も含めて計上され、全体の売上分析がしやすくなるシステムにしたいとお伝えしました。
小山 そういったヒアリングを経て、各営業部署から厳選されたメンバーを集めて、ローンチまで毎週定例会議を実施しました。細かい開発内容をすり合わせたり、使い勝手について意見を出してもらったりしました。開発の優先順位についても話し合い、業務上重要なものを優先、後回しでも良い機能はローンチ後に対応する、といった意志決定をしていました。
佐藤 部署を越えてコミュニケーションをとるためには、週1回の定例という「場」があることが大事でしたね。
佐藤 社内システムには開発する人の暗黙知が入ってしまって、素人には使いづらいということがよくあります。でも今回は、デジタルが苦手な人でも使えるシステムを目指してプロジェクトを進めていたので、システムを実際に使うメンバーが関わることが重要でした。
小山 また、実装にあたって佐藤さんが営業の業務の全体像を把握して、売上の種別やルールなどを整理してくれたため、システムに落とし込みやすかったです。旧システムでは、広告以外の売上は何でも「その他」に入れていて、分類ができていなかったんです。
佐藤 これは褒め言葉なのですが、優秀な営業は「変な」売上をとってくるんですよね。営業担当があらかじめ種別を考えて売る必要はないわけです。むしろ、前例のない売上を上げて、営業の幅を広げてくれるのはすばらしいこと。そういう新しい売上もきちんとシステムに入れられる、将来的にも長く使えるシステムにしたいと考えました。
──プロジェクト開始から1年半でシステムは完成。ローンチ後の業務の変化や、社内の反応はいかがでしたか。
佐藤 営業の業務がスマホやPC上でできるようになり、かなり効率化されました。これまで紙でやり取りしていた請求書も電子化されて、社内でお互いの部署をハンコのために行き来したり、といった手間がなくなったことで、従来は1週間かかっていた請求書の発行が2日ほどで完了するようになった。
また、広告売上とその他の売上をひとつのシステムで一括管理できるようになったので、全体の売上把握がしやすくなりました。これまでは、マネージャーがバラバラのシステムからExcelで情報を引っ張ってきていたうえ、売上種別も整理されていなかったんですね。メディアビジネス部門の売上の実態が正しく反映されたデータが、容易に見られるようになったことは大きいですね。
小山 以前のシステムには、ビジネスのルールがあまり組み込まれていなかったんですよね。たとえば、「この取引先とはこういう契約はNG」といった事情がシステムに反映されておらず、稟議が進んでから手戻りするケースがあったんです。新しいシステムではNGな取引を選択できない仕様にしたことで、営業メンバーのミスが減り、経理などのバックヤードもフォローの手間が省けるようになったと思います。
──新しいシステムは社内に浸透するまでに時間がかかるイメージですが、メンバーに使ってもらうために何か工夫されましたか。
佐藤 定例会議のメンバーの選び方が重要でした。各部署からメンバーを選ぶにあたって、細かい点を気にする人とそうでない人を混ぜるなど、バランスを考慮しました。私自身がそうですが、もっともシステムに疎い人でも使えたなら、皆に受け入れられるシステムになるはず。
佐藤 売上には興味があっても、その後の処理について解像度が低い営業も実際は多い。「そういった人向けのシステムだ」という認識を持ったうえで、開発を進められたのがよかったかなと思います。
小山 また、ローンチ前にはハンズオン形式のセミナーを行い、繰り返し使ってもらいました。今回のシステムを使う5つの部署ごとに開催し、全員に参加してもらったかたちです。