コピーライティングは「人を動かす技術」
──最初に、衣田さんのキャリアについて教えてください。
新卒で住友金属工業(現・日本製鉄)へ入社し、本社の営業部に配属されました。自動車のボディや家電などに使う薄い鉄板を担当し、国内外の製造メーカーへ向けたBtoB営業を15年ほど経験したのち、脳性麻痺の子どもの通院・介護のため、営業企画部門へ異動。システム面を含めた新しい業務フローの構築や、合併後は設備の統廃合・営業系の受注システム統合を進めました。
その後、より時間に融通が利く環境を求めて、自宅でできる仕事を本格的に探しました。お菓子づくりや整体師の道も考えましたが、何の心得もなくいきなり始めるのは無理があります。そんな中、セールスコピーライターという仕事を知りました。アメリカではすでに確立されている職業であり、試しにやってみると、営業職・営業企画職と共通する部分が多いことに気づきました。それに、覚えるべき原理原則も少なかったんです。
セールスコピーライティングと出会って1年9ヵ月後、システム統合が無事完了したタイミングで独立しました。現在は共著の出版や講座の開講など、コピーライティングを世の中に広める活動をしています。
──「コピーライティングと営業職・営業企画職は共通する部分が多いことに気づいた」とうかがいました。それはどのようなご経験からでしょうか。
当時、グループ全体で約2万4,000人の社員が働いていました。社内だけでも10~15ヵ所の関係部署があり、社外には商社、加工センター、メーカーがあり……とにかく関係者が多かったんです。
また、鉄鋼製品はひとつにつき10~20トンと非常に重く、ひとりでは1ミリも動かせません。何をするにしても、すべて人に頼まなければいけないのです。顧客の生産変動によって急な増産対応が必要になるたび、なぜそのような事態が起こり、どうして対応しなくてはいけないのか、関係各所へすべて説明して動いてもらわなければなりません。電話で頼むこともありましたが、ほかの部署へ展開してもらうことを考えると、又聞きは情報鮮度や正確さが落ちてしまうため「書いて頼む」必要がありました。
このときの考え方と、セールスコピーライティングの考え方がまったく同じだったんです。どちらも「人を動かす技術」、つまり、「自分がしてほしい行動をとってもらう」技術なんですね。営業時代に自分が試行錯誤していたことは、このようなフレームに落とし込めるのかと腑に落ちました。