“現場畑”から見えた「日常業務の延長」という視点
「セールス・イネーブルメント」とは、「人の成長を通じて持続的な営業成果を創出する仕組み(※)」をつくることだ。この仕組みにより、トップセールスへの依存や、営業組織全体のスキルのバラツキを解消でき、効率的に営業成果を挙げることが期待できる。
※『トップセールスだけに頼らない組織を作る 実践セールス・イネーブルメント』(山下貴宏著/翔泳社)より
今回編集部がインタビューしたスマートドライブは、自動車などの移動体から得られるデータを活用し、社会交通課題を解決するサービスなどを展開するスタートアップ企業。2022年からイネーブルメントに本腰を入れ始めたという同社の岩瀬さんはこう語る。
「事業の拡大にともない営業の人数が増加し、即戦力化する仕組みを強化する必要がありました。これまでもイネーブルメントには取り組んでいたものの、現在は全社員約80名、セールス全体で20人弱おり、私が所属するフィールドセールスだけでも直近1年間で8人増員。受け入れ側もサポート体制を整えていかなければなりませんし、そうしなければ会社全体の伸びも鈍化してしまいます。そういった組織の成長における課題感から、私のもとに上司から相談がきました」(岩瀬さん)
昨今のイネーブルメントに関する書籍やセミナーでは、複数人で構成された「イネーブルメントチーム」をつくることを推奨したものも多いが、同社では、フィールドセールスの岩瀬さんがイネーブルメント推進担当を兼務。自社の組織規模に合わせてリソース配分を考慮した結果だという。
「最初にイネーブルメントを始めようと旗を揚げたのは営業責任者です。そこでフィールドセールスとして一定の成果を出していた私が、イネーブルメント担当にアサインされました。ただ、私ひとりではなかなか難しいため、営業責任者と壁打ちしながら進めているところです」(岩瀬さん)
営業の“現場”と兼務してイネーブルメントに取り組むことについて、どのように感じているのか聞いた。
「私は現在2社めですが、1社めからずっと営業の“現場畑”にいます。裁量を持ちながら個人としての売上を伸ばすことに営業の楽しさを感じてきたため、実はそもそもあまり他人に興味がない人間でした(笑)。一方で、イネーブルメントは組織の成果を挙げる取り組みのため、試行錯誤していますね」(岩瀬さん)
イネーブルメントには、「育成」「営業コンテンツの整備」などあらゆる概念があると言われる。取り組みも企業によってさまざまだが、立ち上げから半年以上経った現在、スマートドライブはどのような取り組みを行っているのか。
「商品や競合の知識といったナレッジをSlack上で共有・蓄積したり、商談を振り返る1on1コーチングを実施したりなど、営業が効率的にスキルアップできる仕組みづくりに注力しています。1つひとつの取り組みはたいしたことは行っていません。ただ、意識しているのは『日常業務の延長にイネーブルメントがある』ということ。というのも、イネーブルメントでは『現場が無理なくできる』という視点が大切だと思っているからです」(岩瀬さん)