成果を挙げられる営業マネージャーの絶対数が少ない
IT業界においてスタートアップから中堅、大手上場企業までさまざまな企業と接点を持ってきました。その中で企業規模や事業継続年数にかかわらず、「営業マネージャー」という仕事に対する育成の制度やプログラムが存在していないことを感じました。
一方、シリコンバレー周辺企業では(私の前職である西海岸のスタートアップもそうでしたが)セールスマネージャーの価値定義が行われており、その前提で転職をしている人がたくさんいます。日本に視点を戻すと、マネージャーが転職しても、現場からのスタートとなることも少なくないでしょう。「組織の成果を挙げられる型を持つマネージャーの絶対数」が少ない点から、日本の営業組織における育成課題も見えてくるように思えます。
事例をひとつ共有しましょう。誰もが知っている大手IT企業の稼ぎ頭の事業本部では数百人の営業を抱えています。その営業企画の方から「人材育成の手法がOJTしかないため、見直したいのです」と相談を受けました。
その企業では、施策のひとつとしてさまざまな動画コンテンツを好きなだけ受講できるeラーニングシステムを契約し、営業企画から「会社として投資するので自己研鑽のためにぜひ使ってほしい」と伝えたものの、蓋を開けてみると誰も使っていなかったというのです。大手企業だからこそ、新卒が毎年入社し、彼らが各部署で先輩や上司から「OJT」で学んでいくやり方が何十年も続いているわけです。これは、「越境学習」の文化が定着していないとも言えます。
営業個人の能力開発すらままならず、マネージャーが背中を見せることでしか人が育たないとなると、マネージャー層の能力開発における難易度が高いことは明らかです。
営業に必要な力は日々変化し続ける
一方で、OJTは育成手法のひとつであり、それ自体は悪いものではありません。問題は「OJT偏重」であり、その要因はそれ以外の育成方法を知らない人が多いからでしょう。
プライム市場に上場しているとあるIT企業の営業部長は、自分が誰よりも忙しい状況に陥ってしまっていました。部長の評価は育成そのものではなく、成果です。そのため、育成を優先できず、自分が現場に出て成果を挙げ「横で見ててね」の方針になってしまう。
プレイヤーとして優秀な人がマネージャーになる日本企業の昇進制度において、優秀なプレイヤーであった人ほど現場に出る機会が増えます。実務を誰よりも知っているという自負もあり、「昔とった杵柄」で組織を運営せざるを得なくなるのです。
そんな中、この20年間の間、営業の世界においてもさまざまな変化がありました。ひとつに、買い手側と売り手側の情報格差がほとんどなくなったことが挙げられます。
かつてBtoB ITの領域では、ベンダー側が情報提供を口実に高頻度で接点を持ち、課題をヒアリングし、その情報をもとに提案書をまとめることでほかのベンダーよりも早く動く──これがひとつの勝ちパターンでした。現在、営業マネージャーを務める人の多くはこのスタイルの営業を経験し、成果を出してきています。それが現代においては、通用しないスタイルであることを自覚せず、指導をしてしまっているのです。
たとえば、『チャレンジャー・セールス・モデル』(海と月社/2015年)では、数千人のサーベイをもとに、課題は「ヒアリングするものではなく、ディスカッションやインサイト提供を通して、お客様と共に見つけるもの」になったこと、そしてこのプロセスに介在する人が安定してパフォーマンスを出すことができるという結果が共有されました。
そして、いまもなお営業に必要な能力は変化し続けています。たとえば売り込むのではなく、知識を蓄え、意見を持った人間としてお客様と議論するプロセスが求められるシーンも増えました。にも関わらず、育成プログラムやコンテンツの整理はできていないため、「場当たり的にハイパフォーマーに同行させる」「成果が出ている資料を共有する」──そして最後に頼れるものは自分の成功体験しかないという辛い状況になっているのではないかと思います。