営業プロセスだけではなくマネジメントの分化を
今井(セレブリックス) このセッションでは「今、本当に考えたいNEW SALESと営業組織の行方」というテーマでディスカッションしていきたいと思います。今の営業界で考えられる“最強の布陣”を実現しました。最初の議題は「強い営業組織を生み出すために、経営層やマネージャー層が取り組むべきこと」です。
麻野(ナレッジワーク) めちゃくちゃ言いたいことがあります。「営業スタッフの強化」ですね。いわゆる営業企画のような職種の人を増やすべきだと思っています。チームや組織の発展は「分化」によってもたらされました。古くは原始時代、獲物の捕獲・運搬・調理までをひとりの人間がやっていたわけです。これらのプロセスを分化したことにより、人類の生産性は爆発的に上がりました。
麻野 営業組織も分化していかなければ、生産性は上がりません。僕は「The Model」のことを“横の分化”と呼んでいるのですが、横(=営業プロセス)だけでなく縦(=営業マネジメント)の分化も必要だと考えています。商品資料や提案書フォーマットの作成、営業パーソンの育成、システム導入と数字の分析、これらすべてをひとりのマネージャーがカバーしようとするからうまく回らないわけです。コンテンツ担当、ラーニング担当、オペレーション担当などの営業スタッフを、営業マネージャーとは別に配置する縦の分化が必要ではないでしょうか。
今井 営業スタッフの評価についてお聞きしたいです。営業担当者の成果は数字として表れやすいため、マネージャーは評価がしやすい一方、営業スタッフの成果は数字に表れにくいぶん評価が難しいように思います。
麻野 営業スタッフに限らず、法務や総務、開発部門の担当者もわかりやすく定量的な目標を設定できるわけではありませんよね。それらの職種と同じように目標を設定すれば良いと考えています。ただ、営業スタッフの配置先は営業部門です。たとえ営業成果をダイレクトに生み出しているわけではなくても、ほかの間接部門のスタッフに比べると営業成果との連動性は求められます。そのため、目標設定の折は営業スタッフにも営業成果の何割かを担ってもらうと良いかもしれませんね。
短期の重力に負けないために
今井 ありがとうございます。続いて高橋さん、お願いします。
高橋(TORiX) ものすごくベタなのですが「お客様を理解すること」だと思います。最近、営業Tipsのようなものがバズったりするじゃないですか。たとえば「差出人の名字を漢字表記、名前をひらがな表記にするとメールがよく読まれる」みたいな情報が出回った数日後には、どこの企業もその方法でメールを送っているように(笑)。
高橋 その一方で、当社のコンサルタントがクライアントの営業担当者に「皆様の顧客はどんなことにお困りなのですか」と質問しても、明確に答えられる方は意外と少ないんですよね。それらしい返答は返ってきても、深掘りしていくと実はあまり理解されていないケースが多いようです。お客様の困りごとに営業メンバーの注意を向け続けることが、マネージャーに求められていると思います。
今井 「お客様を理解せよ」というメッセージは、多くの営業担当者にとって“耳タコ”だと思います。それでもなお、高橋さんが指摘されたようなケースが生じるのはなぜなのでしょうか。
高橋 マネージャーが現場の実態を掴めていない印象はあります。今はオンライン商談の録画など、現場を把握するためのさまざまなデータがあるものの、それらを真面目に見ようとするトップの方が少ないのかもしれません。
麻野 なぜそうなってしまうのか僕なりに考えてみたのですが、営業という仕事には「短期で数字をつくらなければならない」という圧倒的な重力があるからだと思うんです。営業担当者が営業企画を兼務すると、企画業務が後回しになってしまう理由と同じですね。
「誰に・何を・どのように」の「どのように」が重要視されるのは、短期で数字をつくりやすいからです。ただ、中長期の数字はおそらく「誰に」や「何を」で決まります。短期の重力に負けて「緊急ではないが重要な中長期の数字」を後回しにする企業が多いからこそ、そこに注力できている企業は勝つでしょうね。