資料作成0を目指し、10年スパンで見える化に取り組む
当時の状況を秦氏は、“業績会議で予算の99%から101%の案件しか表に出さない文化”と表現する。予算より大幅に案件数が少ない状況では指摘されるのはもちろん、正直に案件をすべて提示すると「すべて獲得するように」と言われてしまうために、大体同じような数字を出してしまう文化で会議が行われていたのだという。
しかし、実態がわからないと、戦略も立てられない。そこで秦氏は、“10年後にすべてを見える化する”という目標を設定した。「すべてのデータやビジネス活動を見える化することで、業績会議もいらなくなる。経営会議もリアルタイムデータを使い、資料作成の廃止を目指し、取り組みを開始した」という。開始から3年後に向けて設定した目標はクリアし、現在は10年以内での達成を掲げたToBeの実現に向けて取り組みを加速させている。
全社的な取り組みとなると、関係各所との調整や議論が必要になる。日立ソリューションズでも、SFA導入時に多くの企業が経験する「入力が進まない」という課題が生じ、改善のためにさまざまな施策を進めたという。
「まずは、SFA活用の利点をよく知ってもらい、入力を促すことが重要です。また、正確なデータが溜まり始めると、幹部は業績を気にしてしまいますが、現場が入力を躊躇することがないように、初期は実態を把握することを重視しました。すぐに成果を求めない会議を目指すなど文化の改革も並行して行いましたね」(秦氏)
他方で、役職別や若手向けにコミュニケーションの内容を変え、教育も実施。とくに新人に対しては、「営業活動におけるSFA活用=当たり前の文化」で育成を行っているという。
Sales Tech活用におけるマスタ整備の重要性
続いて、ふたつめのテーマであるSales Techにおけるデータの重要性について鈴木氏は、「セールス・マーケティングにおいてもデータベースの重要性は年々高まっている」と現状を分析し、秦氏にデータベースの重要性をどう考えているか問いかける。秦氏は、「世の中にはさまざまなデータがあり、あらゆる軸で分解できる。それはセールスに限らず、すべての業務で必要なこと。分析するには同じ基準で見る必要があり、マスタが大事になる」との見解を示した。
次の図は秦氏の業務経験のもとに抽出したデータを扱う際の分類軸の一部だ。たとえば、ビジネス活動においては、データが「ストック」なのか「フロー」なのか、つまり受注伝票・契約書などの蓄積されるべきものなのか、SNSコミュニケーションのような流れていくデータなのかに分類される。そのほかにも、さまざまな分類軸があり、それらをいくつも組み合わせてデータ活用・分析を行うことになる。
日立ソリューションズがデータを活用していくにあたって構築しているデータベースとSales Techを表わしているのが次の図である。基幹システムは日立グループ共通のシステムで、ほかにSFAやサブシステムとして勤怠などの業務システムがあり、それぞれから個別にデータレイクにつないでいる。
「一旦データレイクに溜め、マスタなのかトランザクションなのか、質を求めるか求めないかなど、先ほど挙げたような切り口に併せてBIツールでデータを見ています。BIツールで見るためにはマスタが不可欠です。とくに営業活動やビジネス活動では、お客様のマスタがないと分析ができません」(秦氏)
この中には、ランドスケイプのサービス群も含まれている。「BIツールだけでは良い分析はできない。日立のデータベースやさまざまな会社のマーケティング情報も組み合わせ、戦略立案やマーケティングに活かしているが、大元は国内最大級であるランドスケイプのデータベースをもとに、付加情報を載せて『マスタ・オブ・マスタ』をつくっている」と秦氏はマスタの重要性を強調した。