営業改革のため“数値で評価可能な仕組み”の構築へ
ランドスケイプは、日本最大級の法人マスターデータベース「LBC」を有し、各企業が持つ顧客データベースの名寄せやクレンジング、新規開拓先のターゲティングをはじめ、昨今ではSales Techの利活用やDX、デジタルマーケティングを支援するサービスを提供している。本セッションに登壇した日立ソリューションズも、LBCを搭載したランドスケイプの顧客データ統合ツール「uSonar」を活用してセールスオペレーションの高度化に取り組んでいる。
秦氏は、日立ソリューションズでSEやユーザー企業のCIO補佐職を歴任し、その後経営企画部を経て、6年前に現在の営業部門に赴任した。営業部門に異動してからは、Salesforceの再構築、マスタ整備への取り組みのほか、インサイドセールスを立ち上げて部門内の改革を行っている。その取り組みが評価され、Salesforceユーザーが自社の活用事例を発表する「SFUG CUP 2021(第9回Salesforce全国活用チャンピオン大会)」で優勝を果たした。
今回のセッションは、秦氏のこれまでの経験とそこから得た知見を踏まえ、「Sales Tech導入の目的・目指す先について」「Sales Techにおけるデータの重要性」というふたつのテーマで、ランドスケイプの鈴木彩乃氏が聞き手となって進められた。
まず、日立ソリューションズにおけるSales Tech導入の目的と目指す先、利活用状況が紹介された。秦氏は現在、「営業統括本部 インサイドセールス第1部 部長」という肩書きで活動しているが、秦氏が営業部門に配属された当時の部署は営業戦略部という組織形態であり、現場での営業生産性が頭打ちであったという。「ひとり当たりの生産性向上が必要だということは結果からわかったが、もらえるデータは結果だけで、どこにメスを入れるべきか分析するためのデータがなかった。個人が所有していても、チームや全社で活用できていなかった」と秦氏は当時の状況を振り返った。
そこで秦氏は、営業部門における「数値で評価可能な仕組みの構築」「業務プロセス改革」「ビジネスモデル改革」を実施する必要性を感じ、Salesforceの再構築、マスタ整備に取り組んだのである。
資料作成0を目指し、10年スパンで見える化に取り組む
当時の状況を秦氏は、“業績会議で予算の99%から101%の案件しか表に出さない文化”と表現する。予算より大幅に案件数が少ない状況では指摘されるのはもちろん、正直に案件をすべて提示すると「すべて獲得するように」と言われてしまうために、大体同じような数字を出してしまう文化で会議が行われていたのだという。
しかし、実態がわからないと、戦略も立てられない。そこで秦氏は、“10年後にすべてを見える化する”という目標を設定した。「すべてのデータやビジネス活動を見える化することで、業績会議もいらなくなる。経営会議もリアルタイムデータを使い、資料作成の廃止を目指し、取り組みを開始した」という。開始から3年後に向けて設定した目標はクリアし、現在は10年以内での達成を掲げたToBeの実現に向けて取り組みを加速させている。
全社的な取り組みとなると、関係各所との調整や議論が必要になる。日立ソリューションズでも、SFA導入時に多くの企業が経験する「入力が進まない」という課題が生じ、改善のためにさまざまな施策を進めたという。
「まずは、SFA活用の利点をよく知ってもらい、入力を促すことが重要です。また、正確なデータが溜まり始めると、幹部は業績を気にしてしまいますが、現場が入力を躊躇することがないように、初期は実態を把握することを重視しました。すぐに成果を求めない会議を目指すなど文化の改革も並行して行いましたね」(秦氏)
他方で、役職別や若手向けにコミュニケーションの内容を変え、教育も実施。とくに新人に対しては、「営業活動におけるSFA活用=当たり前の文化」で育成を行っているという。
Sales Tech活用におけるマスタ整備の重要性
続いて、ふたつめのテーマであるSales Techにおけるデータの重要性について鈴木氏は、「セールス・マーケティングにおいてもデータベースの重要性は年々高まっている」と現状を分析し、秦氏にデータベースの重要性をどう考えているか問いかける。秦氏は、「世の中にはさまざまなデータがあり、あらゆる軸で分解できる。それはセールスに限らず、すべての業務で必要なこと。分析するには同じ基準で見る必要があり、マスタが大事になる」との見解を示した。
次の図は秦氏の業務経験のもとに抽出したデータを扱う際の分類軸の一部だ。たとえば、ビジネス活動においては、データが「ストック」なのか「フロー」なのか、つまり受注伝票・契約書などの蓄積されるべきものなのか、SNSコミュニケーションのような流れていくデータなのかに分類される。そのほかにも、さまざまな分類軸があり、それらをいくつも組み合わせてデータ活用・分析を行うことになる。
日立ソリューションズがデータを活用していくにあたって構築しているデータベースとSales Techを表わしているのが次の図である。基幹システムは日立グループ共通のシステムで、ほかにSFAやサブシステムとして勤怠などの業務システムがあり、それぞれから個別にデータレイクにつないでいる。
「一旦データレイクに溜め、マスタなのかトランザクションなのか、質を求めるか求めないかなど、先ほど挙げたような切り口に併せてBIツールでデータを見ています。BIツールで見るためにはマスタが不可欠です。とくに営業活動やビジネス活動では、お客様のマスタがないと分析ができません」(秦氏)
この中には、ランドスケイプのサービス群も含まれている。「BIツールだけでは良い分析はできない。日立のデータベースやさまざまな会社のマーケティング情報も組み合わせ、戦略立案やマーケティングに活かしているが、大元は国内最大級であるランドスケイプのデータベースをもとに、付加情報を載せて『マスタ・オブ・マスタ』をつくっている」と秦氏はマスタの重要性を強調した。
法人マスタの活用で営業品質の高度化も
また秦氏は法人マスタを活用する理由として、営業品質の向上も挙げた。「問い合わせ内容だけを見て対応を判断するのではなく、Salesforce上で会社の業種や規模、どんなビジネスを展開しているかという付加情報を見て対応できると、お客様からの第一印象が変わってくる」と説明する。
秦氏は企業マスタのほかにも、製造業における部品マスタなどさまざまなマスタが必要であるとし、根拠として次の図を紹介した。「マスタが整っていれば、やらなくて良い仕事がある。あるはずのコードが見つけられずに二重にデータを登録してしまうと、それだけで経営に悪影響を及ぼします。企業のあらゆる資産管理においても、マスタは重要」と述べ、本編を締めた。
セッション後半のQ&Aでは、視聴者から「マスタを構築することでどれだけの効率化や成果が出ているか」という質問が投げかけられた。秦氏は「ランドスケイプを導入することで、コード管理をする業務がほぼゼロになる。お客様マスタは毎月データを刷新してもらい管理する必要がない。投資額の4倍くらいのコストを削減できたと試算している」と具体的な成果について語った。
最後に秦氏は「DXの取り組みを通じて、もっと業務を効率化し、さまざまなチャレンジができると思う。SalesZineのインタビュー記事『業績会議・資料ゼロへ SFA再構築×インサイドセールス育成で挑む日立ソリューションズの営業改革』もぜひ、参考にして欲しい」と述べた。それを受け鈴木氏は、「営業組織に所属する視聴者の方々が、業務の中でトライアンドエラーを繰り返しながら、自社に合うセールスオペレーションのかたちをつくって欲しい」とメッセージを送った。
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