1-1 営業戦略に必要な要素
まず戦略について認識を合わせましょう。戦略とは「長期的・全体的展望に立った闘争の準備・計画・運用の方法」(大辞林第三版)とあります。よく、「戦略の基本は“選択”と“集中”だ」などといわれますが、そのためにも「長期的」「全体的」に熟考した上で、効果が期待できる施策に集中していくのです。
本節では上記のような“熟考”を効率的に行うための、スタンダードな戦略のフレームワークとその組み合わせ方について解説します。
▼3C分析(課題の整理)
3C分析とは「Customer(お客様)」「Company(自社)」「Competitors(競合)」の略で(図1)、戦略立案に向けた環境要因を分析します。その使い方としては、まず「お客様の求める価値」は何か、それはどのように「変化しているか」を考え、それに対して、自社は対応できているか(可能か)、競合は対応できているか(可能か)を考えます。
そしてお客様の求める「価値」や「変化」に自社が対応できていなければ、明確な課題となります。更に、競合が対応できていたとしたら深刻度は増しますし、価値提供を諦めなければならなくなるかもしれません。それら課題の中から、成果を上げるためには、何を解決、達成しなければならないかを考え、戦略課題として、優先順位をつけていきます。
▼ドメイン(方向性の確認)
3Cで抽出した戦略課題の優先順位をつけるために「ドメイン」を考えてみます(図2)。まず「ターゲット」を明確にし、その「ターゲット」に対しての提供価値を考えます。その際営業部門としてだけでなく、会社や事業として提供している価値(バリュープロポジション)も考えます。そしてその提供価値を実現するために今持っている、またはこれから身につけなければならないコアコンピタンスを考えます。
▼SWOTクロス分析(戦略内容の検討)
次に、具体的な打ち手を考える方法として「SWOTクロス分析」があります(図3)。これは3C分析で整理した「強み:Strength」「弱み:Weakness」、「機会:Opportunity」と「脅威:Threat」を掛け合わせ、「強みを活用して機会をとらえるために何をするのか」「弱みによって機会を逃さないために何をするのか」「強みを活用して脅威を排除するために何をするのか」「弱みによって脅威を増大させないために何をするのか」を考えます。
▼BSC(戦略目標の設定)
SWOTクロス分析で出した「打ち手」の候補から、「何」を「どれくらい」やるのか「戦略目標」としてまとめます。その際にBSC(バランスドスコアカード)の考え方を使いまとめていきます。
1-2 戦略は作るだけでは遂行されない
本戦略実行に向けて、「理解」「納得」「実行」「定着」という流れがありますが(図4(’11年弊社白書より))、実は「納得」以前に戦略が正しく理解されていないケースが多いです。本節では「フレームワーク」と「自己決定」というキーワードからその解決策を解説します。
よく「戦略的な新商品が売れない」といったケースがあります。本来であれば“売りやすい”はずですが、新商品だけに初期不具合や故障があるかもしれない、サポートが追いつかないかもしれない、何より自分自身が新しい商品知識を覚えられないなどの先入観や不安から営業担当者が売ろうとしないのです。
その結果、単に新商品が売れないだけでなく、新たなポジションの獲得という戦略的な目的に対して、十分な取り組みがなされないままにその可能性が摘まれてしまうのです。
こういった営業担当者の不安が妥当なものでしたら、ある意味仕方がないのですが、問題なのは、間違った理解や不十分な理解によって(それゆえに)納得していないというケースです。
例えば、過去の失敗の教訓からこの新商品は不具合やサポート、専門的知識に対応するために、専門スタッフによる支援体制を万全に整え、営業担当者はお客様との接点機会を作るだけでよかったとします。それをいくら説明しても理解をしないままでは「前にやったが、ダメだった」という記憶の引き出しに入ってしまい、その後何度いっても理解されません。
こういった状況を防ぐためには、最終的な“答え”としての“指示”を出すのではなく、「自己決定」する余地を残し、そこに向かって思考させるようにするのです。よくマネジメントの世界でいわれる「コーチング」と同じ考えです。しかし「考えた結果それはやらないほうが良いと思います」などと「決定」されてはいけないので、適正な結論に導くための、考え方の枠組みやプロセスを示しておきます。それが「フレームワーク」です(図5)。
例えば、部門の戦略を考える際にメンバーも巻き込んで一緒に考えさせます。普通は既存商談の積み上げで目標に届くことはないので、「新商品をどう活用しようか」という話になります。
マネジャーは前節で説明したような、フレームワークに基づき、「まず考えさせる問いかけ」を行い、条件をつけたり外したりしながら「思考を助ける問いかけ」を行い、“適正な結論”に導いていきます。そして「やることを合意する問いかけにより」結論とアクションを引き出します。これにより、メンバーからは思考による正しい“理解”と自ら考えたことによる“納得”を引き出すことができるようになります(図6)。
1-3 営業とマーケティングの統合戦略
本節では営業とマーケティングの統合戦略を考える上で、スタンダードになりつつある「セールスイネーブルメント(Sales Enablement)」や「セールステック(Sales Tech)」というキーワードを交えて、その本来的な意味合いと、有効に連携させるためのポイントを解説します。
セールスイネーブルメントというと最近では「セールスを早期に戦力化するための一連のしくみ」という考え方も広まっていますが、本来的には「顧客の購買のプロセスに迅速に対応するため、組織全体が連携して営業成果を出すための活動の総称」として用いられており、本章でもこの考え方に沿って解説していきます(図7)。
まず、顧客の購買プロセスに対応する売り手側の販売プロセスがあり、その中で「マーケティング」が「ウェビナー」や「MA(マーケティングオートメーション)」ツールを活用しながら「リード」と呼ばれる個人情報を獲得し、それを「インサイドセールス」が、電話や「オンライン商談」ツールを活用しながらナーチャリング(育成)や見極めを行います。
その後、商談化しそうなリードに関しては、「フィールドセールス」に引き継ぎ(トスアップ)され、「SFA/CRM」ツールを活用しながら商談を成約までもっていく、そして成約後は「カスタマーサクセス」に引き継がれ、継続的取引に向けて、様々な能動的サポートを行います。
それらの流れがスムーズに進むように、営業推進部門が必要な支援施策を行ったり、人材開発部門が必要な育成(教育)を行う。そしてそれら全ての取り組みを戦略に基づいて経営や執行部がサポートし、現場でマネジャーがマネジメントするといったことになります。
ここで重要なのは「部分最適に陥ることなく各機能がシームレスにつながり営業成果を上げるために一貫して取り組む」ことです。よくある課題としては、マーケティングやインサイドセールスがセールステックを駆使して良質なリードをトスアップしてもフィールドセールスが追わず、またはスキルや知識が足りず、成約に至る件数が伸びなかったり、またスキルや知識を教育してもマネジャーが有効にマネジメントできていなかったりと、どこか部分を強化しても、全体の成果にはつながらないといったものです。
その原因としては様々なものがありますが(次節でも日本企業特有の課題について触れます)まずは成果が上がるように全体の構想・連動を考えなければなりません(図8)。
これは営業上の成果を上げるためには「能力」「しくみ」「マネジメント」の3要素が有機的に連動しなければならないことを表しており、例えば教育で教えた内容があるとしたら、その人は「なぜそれをしなければならないのか」というルールや評価面も考慮しなければなりませんし、何よりも日々接しているマネジャーが有効にフォローできなければ行動には結びついていきません。