ニーズ充足型営業を卒業しよう パースペクティブセリングとは
小林 CSOインサイトによる「セールスベストプラクティス調査2019」で紹介されている重要な12のベストプラクティスのひとつに「価値メッセージ(Effective Value Message)」があります。成果を出す営業組織が顧客に提供している「効果的な価値メッセージ」とは一体どういうものでしょうか。
徳久 「価値メッセージ」が求められる前提として、我々の提唱している「パースペクティブセリング」というものがありますから、ここから説明させてください。「パースペクティブセリング」と対比されるのは、2000年ごろから必要性が語られてきた「ニーズ充足型」の営業活動です。これは、お客様の頭の中にある「こうしたい」「困っている」を営業が認識のずれなく正確に把握してお応えする営業スタイルです。対してパースペクティブセリングは「お客様の経営課題に直結する新たな気づきをお客様に提供する」という、ある種お客様に驚きを与えるような営業スタイルを意味しています。
ニーズ充足型は良い面もありますが、生産性が低くなるという問題点があります。お客様の要望に応えようとするあまり、自分たちのケイパビリティを超えてパートナーを探したり、追加の開発をしたりしてしまう。一見良いことに思えますが、専門性のないことを無理して行うことで結果的にはお客様にも不満が残り、収益性も低下します。「パースペクティブセリング」では、自社のケイパビリティに合致した顧客の経営課題にフォーカスをしていきます。
丸 なぜ「パースペクティブセリング」を目指すのかについても説明しましょう。次の図は「課題や解決手段を、お客様/営業が、わかっているか/いないか」から営業スタイルを整理した図です。昔は「行動重視型」や「奉仕型」の営業スタイルが大半でしたが、お客様は自分たちがわかっていないことを提案してもらえる左上の「提案型営業」を求めるようになりました。そして、CSOインサイトをはじめさまざまな調査で明らかになっているように、お客様はある程度目星をつけてから営業担当者とコンタクトをとる時代となり、左上の象限のパイはどんどん小さくなっています。
さらに最近では、短期的な売上達成を目指すのではなく、お客様との長期的な関係構築のために「ワークショップ型」に取り組み、ときには「提案型」とハイブリッドでやっていくことが本質的に正しい時代になっているのです。商いの成功だけではなく、お客様の成功を考える営業組織にならないと、もう差別化は難しいからです。
小林 これまでに登場した営業スタイルは、言葉で定義をして、その定義どおりにできているかどうかをチェックすることで精度を上げてきましたが、パースペクティブセリングには必ずしも確立した定義がなく、我々も営業組織の皆さんも非常に難しい局面を迎えていると思います。便宜上の理解を促す意味で定義をさせていただくと、「顧客の直近の課題だけを解決するでのではなく、未来を考えたときにどれだけ経営課題につながる示唆を与えられるか」ということになるでしょうか。事例や経験から学び、見通しを立てる力をいかにお客様に注げるか。お客様から電話がきて「戦略会議に出てくれないか」と言われる。そういうタイプの営業になる必要があるのだと考えられます。