「前に進むだけの商談」をやめるための運用ルール
最後に、現場でつい「商談を曖昧な状態で進めてしまう」引力を断ち切るための、3つの実務ルールを紹介します。
とりあえずの次回設定を成果にしない
「次回アポイント」を評価の対象にしないことです。次回が設定されても、確定情報が増えていなければ、それは停滞です。次回アポイントは、「今日確定しきれなかった『法務規定』について、法務担当者を交えて白黒つけるための追加検証」といったように、「何を確定させるための場か」が定義された場合にのみ価値を持ちます。
意思決定を曖昧にしたままPoCに進まない
成功条件や判断基準を定めないまま実施するPoC(実証実験)は、検証ではなく単なる時間の消費になってしまいます。本来、PoCは仮説の白黒をつけるための手段であり、意思決定を後ろ倒しにするためのプロセスではありません。
PoCに進むのであれば、事前に「何をもって成功とするのか」という成功条件と、「その結果を受けて誰が最終判断を下すのか」という判断主体を明確にしておく必要があります。そこまで確定して初めて、PoCは意味のある検証プロセスになります。
PoC前の必須質問:
- PoCでどういう数字(成果)が出れば、次の本契約の判断ができますか
- その結果が出た際、Goサインを出すのは〇〇様ですか
これに答えられない状態でのPoCは、リソースの浪費です。勇気を持って断るか、条件が決まるまで保留にするべきです。
失注を学習に変える
「価格が高いと言われました」という報告はNGとします。
「高い」は主観です。「誰の、どんな基準(予算枠やROI基準)と照らして高いのか」まで掘り下げ、構造として確定させます。ここまでできて初めて、失注は「価格設定の見直し」や「ターゲット企業の規模変更」という有益なデータに変わります。

「次の一手」は事実から自動的に決まる
テストセールスの終わりは、たくさん売ることではありません。「事業成立要件のすべてにおいて、GoかNoかの判定が出揃った状態」が検証完了です。
確定情報さえ集まれば、次の一手は悩むことなく、機械的に決まります。
- 不可条件が多いなら:提供形態を変えるか、市場を変える(ピボット)
- 課題の証拠が弱いなら:ターゲットを変えるか、課題設定を変える
- 比較で負けるなら:プロダクトを磨くか、価格を見直す
このように、事実に基づいて意思決定を行うことこそが、新規事業を「前に進める」ということなのです。
新規事業における営業とは、商談を前に進めることではなく、事業仮説の白黒を確定させていく仕事です。たとえ目の前の商談が破談になったとしても、それによって「この道は行き止まりである」という確定情報が得られたなら、事業は確実に成功へと近づいています。
「売れるかどうか」を試す前に、「成立するかどうか」に白黒をつける。この順序を守り、一回一回の商談を科学的な検証活動へと昇華させてください。
さて、読者の中には、「単一の商談テクニックの話ばかりで、ターゲットセグメントの広げ方など事業拡大の議論はしなくて良いのか」と疑問を持たれる方もいるかもしれません。
しかし、それらは「成立構造が見えたあと」に初めて意味を持つ拡大の議論です。まずは今回解説した「仮説としてのターゲット(N=1)」と対話し、目の前の1件で「成立する構造」を見つけなければ、数を追っても意味がありません。
今回の内容で「N=1の成功」を確実につくったうえで、次回はそれを「再現性のある型」として市場全体へスケールさせるための設計について解説していきます。
