イネーブルメントの投資対効果を最大化する「ターゲット層」の見極め
新しい施策を導入する際、多かれ少なかれ「抵抗勢力」にぶつかります。全員に一律で同じメッセージと施策を発信しても効果は薄いため、「誰に」「どのような」メッセージを伝えて、どのような行動に変えたいかを明確にする「communication」の視点が必要です。
まず、営業組織を「会社への帰属意識(ポジティブ/ネガティブ)」すなわち「新しい施策に対する抵抗の度合い」と、「業績(高い/低い)」の2軸で整理してみましょう。次に、「どこにイネーブルメントのリソースを集中させるか」を決めます。
結論から言えば、もっともインパクトがあるのは「会社に対してポジティブな意識を持つ中堅層」です。成績優秀層(エース営業)は、トレーニングよりも高いインセンティブを設けたほうがハイパフォーマンスを維持できますし、極端にネガティブな層にエネルギーを割いても行動変容は期待できません。
組織のボリュームゾーンであり、かつ前向きな中堅層が、もっともイネーブルメントによる行動変容が起こりやすく、組織全体の底上げにつながるのです。
ターゲットが決まったら、次は「誰が」「どのように」伝えるかの設計です。
認知心理学の観点からは「帰属意識は自分から2ステップ先まで」と言われており、現場のメンバーから見れば、日常的に接する直属の上司(課長)やその上の部長クラスまでが、強い帰属意識を持てる限界となります。
評価者であるマネージャーからの適切なメッセージ発信を軸に据えつつ、年次や組織文化、営業成績なども考慮し、メルマガ配信から直属の上司との座談会まで、心理的距離に応じた最適なコミュニケーションプランを設計することが鍵となります。
モバイルゲームの原理を応用した「On-boarding KPI」設計
コミュニケーションプランを設計したあとは、メッセージが正しく届き、行動変容や成果に結びついているかを確認する「On-boarding(オンボーディング)」が必要不可欠です。
On-boardingのフェーズを、施策の「リリース前」「リリース時」「リリース後~定着」に分けて考えてみましょう。
たとえば新しいポータルサイトを導入した場合、KPIとして「ログイン率」や「セルフトレーニングのアクセス率」を確認します。これはメルマガの開封率から次のアクションを決めるマーケティングの手法と似ていますね。この発想を社内向けに転用するのです。
しかし、ログイン率や視聴率はあくまで「行動の結果」に過ぎません。行動変容を促すには、先行指標である「work log」をKPI設計に組み込むのが良いでしょう。ここでヒントになるのが「ゲーミフィケーション」の考え方です。
モバイルゲームでは、ユーザーの離脱を防ぎ、継続的なプレイを促す“常習性”を高めるために、次の6つの要素を重視して設計しています。
- 収集:情報やアイテムを収集させ、興味を引き出す
- 自律:示達的に取り組むモチベーションを高める。
- 所属:コミュニティやグループに所属させて仲間をつくり、“孤独”による脱落を防ぐ
- 競争:適度な競争意識を持たせることで、達成感やパフォーマンスの向上を促す
- 創造:自ら情報を発信し、周囲に広める段階へ引き上げる
- 共感:ほかの5要素の土台。「いいねボタン」を設けてメンバー同士の共感を可視化するなど、すべての要素を支える。
この原理を参考に、デジタル上で計測できるリアルタイムな指標である「Work Log」をKPIに設定することで、営業担当者が自ら行動を起こす仕組みを設計することが可能になります。
ただし、KPIを設計し、コンテンツやツールをそろえれば人が動くわけではありません。実際には、行動を促すための「コーチング」が不可欠です。KPIの設計もまた、このコーチングを正しく機能させるためにあるのです。
というのも、営業担当者が成果を出すまでは、いくつもの「離脱の谷」が存在するからです。「認知・理解」はしたが「行動」に移さない、行動はしたが「習慣化」できない──。こうした各フェーズで現れる離脱の兆候をWork Logからいち早く見極め、適切なコーチングや報酬(インセンティブ)を設けることで、離脱を防ぐのです。
こうしたオペレーション設計とシステム構成に基づきKPIを構築し、「Communication」と「On-boarding」の2軸で展開していくことが、イネーブルメントを展開する要となります。
