「おもてなし」を科学する AI時代の営業マネジメント
──新しいプロダクトは、従来の広告商品とは売り方が異なると思います。どのような工夫をされていますか?
非常に難しい部分です。私自身、「CPA(獲得単価)」というわかりやすい指標をベースに営業提案をしてきた人間です。しかし今回のSaaSが変えるのは、業務の生産性やスタッフの育成など、短期間で成果が見えにくい領域ばかり。しかもブライダル業界における最優先課題は、今も昔も「集客」です。
その中で新しい価値を感じてもらうために、直近取り組んでいるのが「AIの活用」です。
──営業現場でのAI活用ですか。
はい。「おもレビAI」という、我々がお客様に提供している育成ツールを、自社の営業にも活用しています。
具体的には、トッププレイヤーの商談と、新人の商談を録音・解析し、その「差分」を可視化するのです。以前からロープレには注力してきましたが、エース人材につきっきりで見てもらうわけにもいきません。
AIによって「同じプロダクトを売っているのに、なぜ結果に差が出るのか」をデータとして突き止める。活用を進め、まずは全員が「80点」の商談をできる状態を目指しています。
──AIでボトムアップを図る一方で、マネージャーの役割はどう変わるのでしょうか。
AIで基礎的なスキルは学べますが、それだけでは台本どおりでしかありません。そこに本人の強みや、お客様ごとの事情に合わせた提案を乗せるには、やはりマネージャーによる「人」対「人」のマネジメントが必要です。
当社はMBTIやエニアグラム、ストレングスファインダーといった診断ツールが好きな会社でして(笑)。それらの多角的なデータと、本人の価値観、現在の状況を一元管理しています。
リモートワークも併用する中では、かつてのように「背中を見てなんとなく察する」ことが難しくなっています。だからこそ、データを活用してメンバーの特性を理解し、信頼関係を早期に構築する。組織づくりにおいて効率化できる部分は効率化しつつ、ウェットなコミュニケーションの時間を確保するようにしています。
「非効率」こそが価値になる
──立ち上げから1年のSaaSですが、既存顧客の約20%にまで導入が進んでいるとうかがいました。労働集約型と言われるブライダル業界で、DXを進める意義をどう捉えていますか。
私自身、プロダクトの前身となるサービスを立ち上げた際、毎週末結婚式場に通い、朝礼から終礼までスタッフの方とご一緒する経験を積みました。そこで痛感したのは、「非効率自体は悪くない」ということです。

ブライダルという一生に一度のイベントにおいて、手間をかけること、汗をかくことは、そのまま「価値」になります。むしろ、そこにもっとも大きな価値があるとさえ言える。
だからこそ、私たちが提供するSaaSのコンセプトは「効率化して楽をする」ではなく、「自動化できる部分を任せることで、人が価値創造するための余白をつくる」ことです。お客様にはこれを「おもてなしオートメーション」という言葉でお伝えしています。
──「おもてなしオートメーション」、素敵な言葉ですね。
一方で、新規事業の観点で言うと、お客様であるブライダル業界の方々は「やりたくない」かもしれないけれど、社会的には求められていること、という課題もあります。
たとえば「mieruupark」というサービス。従来の結婚式場選びでは、数時間のブライダルフェアに参加して初めて見積もりが提示されるのが通例でした。でも、ユーザーからすれば、あれだけ大きな買い物なのに金額がわからないまま訪問するのは不安ですよね。
そこで私たちは、来館前に費用のシミュレーションができるサービスを提供し始めました。これは一見、式場側の「まずは来てもらって口説く」という手法とは逆行するように見えるかもしれません。しかし、業界をより良くし、ユーザーに選ばれ続けるためには、こうした透明性は長期的に見て不可欠です。
顧客起点でありながら、業界の未来を見据えた「あるべき姿」を提案していく。それが私たち営業の役割だと思っています。
──最後に、営業起点の新規事業に挑みたいと考える方へのメッセージをお願いします。
新規事業は、華やかなことばかりではありません。私もこの1年、本当に会社に貢献できているのか自問自答し、苦しい思いをしてきました。
しかし、今は「投資を受けている」という考え方に転換しています。企画やアイデア自体は、生成AIを使えば一瞬で出せる時代です。だからこそ、チームでぶつかり合い、試行錯誤しながら、世の中に提供できる価値をつくり上げていく「プロセス」そのものに価値がある。
ひとつのアジェンダに対して、職種の壁を越えて2〜3時間議論する。そんな泥臭い時間こそが、メンバーの当事者意識を育て、他社には真似できない差別化を生むのだと信じています。かつて「全力遠回り」と言われた私ですが、その遠回りこそが最短距離だったと証明できるよう、これからも挑戦を続けていきます。
──ありがとうございました!
