コロナ禍を機に生まれた変化 売上ではなく「インサイト」を追う
──順調に進んでいた中で、コロナ禍が業界を襲いました。結婚式の延期が相次ぐ中、営業組織はどう動いたのでしょうか。
本当に厳しい瞬間でした。多くの結婚式が延期となり、短期的な「売上」をつくることが物理的に難しくなったのです。そこで私たちは、そのタイミングでKPIを一部変更しました。売上だけではなく「行動量」を評価し、とにかくお客様の「一次情報」や「困っていること」を探しにいこう、というムーブメントを起こしたのです。
その象徴的な取り組みが、「DXグランプリ」です。
──DXグランプリとは、具体的にどのようなものでしょうか。
端的に言えば、「お客様の課題(インサイト)をもっとも深く拾ってきた人を表彰する」取り組みです。どの層にアプローチし、どんな経営課題を聞き出せたのか。より深いインサイトを提出できた人を、社長や取締役も含めたメンバーで選考し、選ばれたメンバーにはインセンティブも付与しました。経営層のリアルな声を拾ってほしいという狙いがありました。
ここでおもしろかった現象があります。普段の「売上上位者」ではないメンバーが、輝き始めたのです。

押しが強い営業ではなく、お客様との信頼関係をじっくり築けているメンバーこそが、本当の「お困りごと」を聞き出すことができる。我々が当時支援していたのはマーケティング領域が中心でしたが、この取り組みを通じて「人手が足りない」「採用・育成がうまくいかない」「生産性を上げたい」といった、現場の切実な課題が浮き彫りになりました。
これが、現在のSaaSプロダクト開発の種になったのです。
エンジニアと「週3ミーティング」 SaaS開発のリアル
──そうして拾い上げた課題から生まれたのが、現在提供されているブライダル業界の生産性を向上させるSaaS「survox」ですね。しかし、営業起点のアイデアをプロダクトにするには、開発側との連携が不可欠です。
おっしゃるとおりです。ビジネスサイドとエンジニアの連携に壁がある組織は多いと聞きますが、私たちは「一次情報の共有」を徹底することでそこを乗り越えています。
まずは営業が集めた課題を、プロトタイプとして形にする。重要なのはその初期段階から、ディレクターやエンジニアに商談へ同席してもらうことです。聞きかじりの情報ではなく、彼ら自身に顧客の「生の声」に触れてもらうことを何より重要視しています。
──開発プロセスにおいて、具体的なルーティンはありますか?
「週に3回」、顧客の声をフィードバックするショートミーティングを実施しています。営業が顧客から頂いた声や要望を開発側に伝え、一度ストックしたうえで、一定のタイミングで全員で見直し、対応事項をその場で決定していく会議です。
この頻度でやるからこそ、お客様の要望に対して「スピード感」を持って対応できます。逆に言えば、営業が顧客の声を集められなければ、その会議は無駄な時間になってしまう。そのプレッシャーが、営業チームが良い情報を持ち帰るモチベーションにもなっています。
──週3回のミーティングは、開発側との信頼関係にも影響しそうですね。
まさに。実際に顧客の声をベースにした機能を実装し、それによってお客様が喜んでくれたという事実を共有すると、開発側も「実装して良かった」と実感できますよね。そうやって信頼関係が育っていきます。

事業の立ち上げ時も、一気に垂直立ち上げを行うために、営業・ディレクター・エンジニア共に既存事業で経験値の高いメンバーに参画してもらいました。
この点は、私自身が経営メンバーに必要性を説明し、理解を得られた部分でもあります。このビジネスには大きな伸びしろがあること、そして競合より先に市場を取るためには圧倒的なスピードが必要であることをプレゼンし、強い体制を組むことができました。
